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逃げる獲物を追う。
それは迷子とはまた違う追いかけ方になる。できればこっちがターゲットに近づいていることは知られたくない。迷子の場合は反対だ。大声を出して気づいてもらう。お互いに出会いたがっている。逃げてる奴にはこっそり近づく。気づかれないように素早く。
ブルーはルイスに空からの映像を見せてもらい、2人が逃げ込んだ小道に入った。整備されていない草むらに、大人の男が2人走り抜ければ、痕跡がどっさり残る。これは一般警官もわかっていて、それを追いかけたという。ただ、周囲に木々が増えていき、道のない雑木林に入ると、すぐに見失ってしまった。
今回は相手が銃を持っているということもあって、ブルーの後ろにはルイスとミキがついていた。警官隊はその少し後から、音を立てないようにそっと少数精鋭がついてくる。
「かなり荒らされた後だよね。すぐなら追えたのに」
ブルーが愚痴を言うと、ルイスは苦笑いした。
「そこを何とかするのがプロだろ」
「黙ってやれよ、バカ」
ミキが舌打ちし、ブルーは彼女のでかい銃で後頭部を撃たれるかと思った。
何しろ相手は凶悪犯で、銃も持っているから早く捕まえたいという。そりゃそうだろう。そんな奴らに森に逃げられたら困る。出口は無数にあるし、森の中にも小さな集落はある。そこに立てこもられたり、住人を虐殺されても大変だ。今の所、警察から連絡が行き渡り、そういった集落では住民が団結して警戒しているようだが、凶悪犯がどう動くかわからない間は避難もできない。
同時に、こういった森の住民たちは自主警備の力も強い。いろんなものがデジタル化されたこの時代でも、彼らは地元警察やUPを信じずに無法者たちと戦う可能性もあった。そうなることもUPとしては避けたいようだった。都市部ではなくエッジ部に暮らす人々とは揉めないのが今の潮流でもある。
ブルーはゆっくりと地面の踏み跡を確認しながら歩いた。ミキが背後から早くしろと圧をかけるが、構わず慎重に動く。時々、立ち止まって音も聞く。ターゲットは息を潜めているが、時にしびれを切らせて走り出すことがある。
ぬかるみのある道でクリアな30センチの靴跡を見つけ、ブルーはその模様を確認した。刑務所支給品の靴底と同じ模様だった。体重82キロを支えた分の深さが残っている。近くに25センチの靴跡も見つける。確かに2人は一緒にいるようだが、靴跡から見ると、仲良く協力しあっている感じはなかった。避けてもいないが、協力もしていない。
ブルーは頭上の木々を見た。枝はそんなに下まで茂っていないから、折れているものはない。ただ、幹にわずかな横向きの傷が見えた。手錠の幅と合う。
「ねぇ、なんで止まってんの?」
苛立ったミキがブルーの横に来て小声で聞いた。ルイスもついでに近寄るが、彼はミキがブルーに手出ししないかと警戒しているのをブルーもわかっている。
「新しい傷だ。金属か何かでこすった跡。故意か不注意かはわからない」
「故意?」
ルイスが眉を寄せた。
「25センチの方は、トレースされることを知ってるらしいから」
「罠ってこと?」
ミキが少し嬉しそうに言った。楽しそうだ。
「そういう可能性も。でもここを通ったのは事実だから進む」
ブルーはそう答えて、ゆっくり前に進んだ。
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