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ブルーの到着後、45分でトーマスは川べりの岩陰で見つかった。
ブルーはびっしょり濡れて体が冷たくなったトーマスを自分の上着で包み、しっかりと抱いて崖を上ってきた。
トーマスは怯えていたが、明るいキャンプ場に戻ってきた途端、顔を上げて「ママ!」と声を上げた。ブルーはトーマスを涙でぐしょぐしょの母親に引き渡した。
ミキも飛び上がって喜び、アリスは警察隊に発見連絡をした。
そしていつものように、ブルーは発見の経緯を警察に説明させられることになった。後から報告書として提出させられるのに、納得がいかないという顔で、ブルーは渋々従った。ルイスとミキが保護者対応をし、アリスは上司として、警官隊の最後尾でブルーを見守る。
「この辺で木の実を拾ってたって言ってたから、ここで周りを見てみたら、向こうの方が粒が大きいから、向こうに行ったんじゃないかと思った。虫を追いかけた可能性もあるから、花がある方も調べた。で、最終的にここんところにどんぐりが落ちてて」
ブルーは地面を指差す。そしてさっきルイスにした説明を繰り返す。
「テスが持ってたのも同じだった。落ちてるどんぐりには砂がついてない。ポケットから落ちたんだと思う。で、ここは枝が折れてる。新しいでしょ」
同意は得られないが、ブルーは説明を続ける。時折、アリスに救いを求めるような視線を送ってくるが、アリスは黙って続けさせる。警察官たちが「どうして」「なぜ」と聞くのは当然の権利で、ブルーは植物の樹液の乾燥状態から時間を割り出す方法も説明する。
「最初は白いんだけど、時間がたつと透明になる。こんな感じで」
ブルーは実際に樹液を見せる。理解している鑑識官が感心しているが、他の警官は怪訝そうにしているのもいつものことだ。
「で、ほら、100センチぐらいの身長だと、そんなに藪の枝に当たらない。隙間があるでしょ。隙間を抜けたけど、少し足元だけが折れた。折れた枝の歩幅を推測すると30センチぐらい。抜けたところに粘土質のところがあって、靴跡が残ってる」
実際に靴跡らしきものを見て、警官たちがやっと感嘆めいた声を漏らした。ここまでは実感が伴ってなかったようだ。
「しばらく、ところどころ粘土質のところがあって、最後に坂で滑り落ちてる」
そしてブルーは崖を降りる。
「川べりまで落ちて、水から上がった後、ここで泣いてたんじゃないかな。座り込んでた痕がある。でも声は水音で消された。寒くなってきたから、上に戻ろうとしたけど戻れなくて、登れるところを探した。粘土質のところを通ったから、岩に靴跡が少し残ってた」
岩の該当箇所を示され、かすかな土を見て「言われてみれば」と誰かがつぶやく。
「これを追いかけてくと、奥のくぼみにトーマスがいた。賢かったよ。木の葉に包まれて温まろうとしてた」
そう言ってブルーはくしゃみをした。彼も膝までしっかり濡れていて、足元が冷えたのだろう。
上のキャンプ場まで戻ると、すっかり照射ライトも消されて車両のライトだけが光っていた。
「ブルー、乗って。送ってあげる」
ミキがヘルメットをブルーに放り投げたが、ブルーはそれを受け取ったものの、アリスを見た。
「バイクで帰ったら凍って死ぬ。UPの車両で近くのホテルに行って、泊めてくれたりしない?」
ブルーはアリスを恐れているが、たまに甘えてくる。
「半分は叶えてあげる」
アリスはルイスを目で呼んだ。ブルーはミキにヘルメットを投げ返した。
「ルイス、坊やを家まで送ってあげて。ブルー、明日の午前中に報告書を提出すること」
「俺のとこ、途中で湯が水になったりするポンコツシャワーしかないんだよ」
「UPの正規職員の採用試験に受かれば、今より待遇はかなり良くなってもっといい部屋に移れるでしょ」
「採用試験の受験基準がクリアできてない」
「そうね、頑張って。ルイス、連れていって」
「アリス」
ブルーはまだ粘ろうとしたが、ルイスがブルーの服を掴んで引っ張った。
「クソババァ」
ブルーの声が聞こえたが、アリスはフンと笑って現場の最終処理に戻った。
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