1 Tracking 追跡

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「おまえ、隊長にそんな口利いてて、よく生きてこれたな」  ルイスが言って、ブルーは助手席でスニーカーと靴下を脱いだ。そして借りたタオルで水分を取る。濡れたトーマスを抱いていたから、上半身もしっとり湿っている。 「別に殺されたりしないだろ、警察の偉い人なんだから」 「油断してると、また刑務所に戻されるぞ。それぐらいの権限は持ってる」  ルイスは半分面白がりながら脅してくる。が、ブルーは肩をすくめた。 「悪いこと、してねぇもん。むしろ警察に貢献してる。俺、気づいちゃったんだよね」 「ん? 何?」  ルイスは軽く笑いながら聞く。  ブルーはスニーカーにぎゅうぎゅうとタオルを突っ込み、水分を吸い取る作業を終えると、シートにもたれた。 「さっさと見つけると、時給損するって。今日なんか、実質1時間半てとこ。警察の人たち、5時間ぐらい探してたんだろ。俺も一緒にぐうたらすれば良かった」 「いや、時間に追われてるから、おまえを呼んだんであってだな。トーマスだってかなり衰弱してた。早く助けてやって良かったんだって」 「プロジェクトごとの契約ってのはできないのかな。時給だとマジで損する」 「確かにな。隊長に提案してみる。それより隊長が言ってたみたいに、正式採用試験を受けりゃいい。受験にあと何が足りないんだ?」 「高卒資格、身元保証、推薦状」 「身元保証も推薦状も隊長が手配してくれるだろ。おまえが頑張るのは、高卒資格だけじゃないか」 「身元保証と推薦状は別の人じゃないとダメ」 「まぁ、それでも手配してくれるさ」 「いや、そもそも、俺は正式採用されたいのかって話」  ブルーが言うと、ルイスは笑った。 「それは根本的な問題だな。いいぞ、公務員。将来安泰だし、いざってときの障害年金もある」 「クソみたいな理由だな」  ブルーはため息をついて前を見た。郊外なので外灯が少ない。そして道も混んでなくて退屈だった。 「他にやりたいことでもあるのか?」  ルイスが聞いて、ブルーは考えた。 「そうだな。あんま何もない。やりたいとかじゃなくて、マシってだけだな。前の暮らしは金は必要なかったけど、死にそうだった。今は金は必要だけど、そこそこ生きてけそうだってぐらいの違いだよな」 「おまえ、まだ10代だってのに、夢はないのか」 「年齢なんか関係なくね? 俺が来たくて来た世界じゃねぇし、金があったところで、熱いシャワーか、たまに冷たくなるかって程度の違いだし。ルイス、あんたの家でいいよ。泊めてよ。うち、暖房もあんまよく効かないんだよ」 「金、盗んでいく客なんて入れたくない」 「いや、あれは特別だって」  ブルーは慌ててルイスの不機嫌そうな顔を見た。 「この前はホントに金欠で。返しただろ。UPの仕事、やればやるほど金欠になんだって。この前なんか酷かった。移動に前後1日取られて、実働3時間。3日で3時間。泣きたくなった」 「ああ、あれな。だからって盗むな。一言言えばいいだろ」 「くれって?」 「バカ、貸してくれって言えよ。なんでもらえる前提なんだ」 「いいじゃねぇか。じゃぁさ、飯食って帰ろ。おごってよ。今日も昼、食ってなくて」  ブルーが言うと、ルイスはちょっと黙り込み、それからしばらくして心配顔になった。 「そんなに困ってるのか?」 「困ってる、困ってる」  ブルーは大きくうなずき、ルイスが「しょうがねぇな」と言うのを待った。
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