1 Tracking 追跡

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 途中のハンバーガー屋でルイスにおごってもらい、ブルーは大量のフレンチフライをケチャップまみれにして食べた。 「飢えた子どもみたいだな」  ルイスが苦笑いで言い、ブルーは上目遣いでルイスを見た。 「ルイス、そう思うんなら本気でアリスに頼んでくれよ。そりゃ、最初はしょうがなかったけど、もう奉仕期間は終わったし、試用期間だって終わっただろ。俺が金欠で窃盗でもしたら、どうすんの?」 「既にやってるだろ。だから隊長も特別推薦できないんだよ」  ルイスはコーヒーを飲んだ。 「ルイスにちょっと金を借りただけだろ。しかも1ヶ月も前」 「1回だけじゃないし、俺だけじゃないだろ。隊長の財布からもくすねたらしいじゃないか。ミキの電話も勝手に使って水没させた。他にも被害者は山程いる。推薦してもらいたかったら、素行を正せ」 「素行をね」  ブルーは舌打ちをして食べ終わったトレイをぐいとルイスの方へ突いた。  ルイスはアフリカ系の血を継いでおり、細身ながら筋肉質な体を持っている。日々鍛えていることもあってスーツの下はガッチリとした硬い筋肉に包まれているが、性格は温厚であごひげがあっても柔和な印象の顔をしている。 「アリスに聞いてよ。俺、めちゃくちゃ良くなってる。5、6年前に比べたらナントカの差ってやつ」  ブルーが言うと、ルイスは笑って肩をすくめた。 「そうだな、服役中と比べたらな。だけど、治安機関で働こうと思うんなら、前科があるってのは結構なダメージだ。払拭しようって努力しないと」 「前科がどうのって言われたら、俺、死ぬしかねぇよな?」 「そうじゃない」  慌ててルイスが否定し、ブルーは頬杖をついた。うんざりだ。 「違う。今からでもやり直せる。おまえはまだ若い。勉強頑張ってるんだろ?」  フォローしようとルイスは必死だが、ブルーはコーラを飲んで店内をぐるっと眺めた。 「今は波が引いてる。俺、捜査官になりたいわけじゃないし。あ、だからって別に他の何かになりたいとかもない。死ぬのも面倒だから生きてるだけ。俺に期待しないでくれる?」 「あのな、ブルー」 「たかだか10ドルの飯おごったから説教してもいいって思ってんの?」 「俺の分もポテト食ったから、15ドルぐらいだけどな。ブルー、隊長にはちゃんと伝えるから、おまえもおまえができることをしろ。とりあえず、他人の金や物は盗むな」 「それ、命令?」 「友人としての忠告だよ」 「へぇ」  ブルーは息をついた。ルイスはブルーより10歳年上だ。ブルーの姉のジュエルと同い年。 「兄とか言い出さなくて良かった。あと俺、友だちとかって信用してないから」 「ああ、兄って手もあったか」  ルイスが笑い、ブルーは紙ナフキンを丸めて立ち上がった。 「ブルー、ルイス兄さんって呼んでもいいぞ」  ルイスが店員に支払いしながら言い、ブルーは言い返す気力も失って店を出た。
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