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2 Escape 脱走
この国では一日に500人以上、年間では2万人以上が行方不明になる。
もちろん多くは短期間で見つかり、その届けは取り下げられて無事、事件にはならずに終わる。特に成人の行方不明者はほとんどが自主的に行方不明になる。何かから逃げたり、忘れたくなったり、縁を切りたくなったりする場合に自ら行方をくらます。
未成年の場合は、残念ながら事件である可能性が上がってしまう。
迷子や事故以外では、誘拐や拉致といった事件に巻き込まれていることがある。
そして、ある程度早い段階で探し出すことが、被害者の命を救うために必要になる。時間が経つと迷子なら脱水や衰弱があるし、事故で怪我をしていたら出血の心配がある。誘拐、拉致なら加害者が面倒になって殺害してしまう可能性が高くなるからだ。
この前のトーマスみたいな山での迷子は、年に数件ある。ブルーが山に呼び出されるのが月1ぐらいだから、きっと迷子自体はもっと多い。地元警察とボランティア総動員で見つかり、みんなが幸せそうにしているニュース画像を見たことがある。ブルーもその場に居合わせたことがあるが、そんなときはカメラの画角に入らないように隠れることにしている。
ブルーは前科持ちだし、非正規職員で、できれば影に隠れているべき人間だと自覚している。取材に答えるのは、クールビューティなアリスか、チャーミングなルイスでいい。あるいは我が子との再会に感涙している両親でも。
そんなシーンを目の前にすると、ブルーは複雑な気分になる。逮捕されたときを思い出すからだ。
迷子や行方不明になった子どもたちは、帰りを待たれているべきだ。そして涙を流しながら迎えられるべきだとブルーは思う。
そうじゃなかったときの失望感は半端ない。
ブルーが失望について最初に学んだのは、7歳ぐらいのときだった。
当時暮らしていたスラムの路地で声をかけられ、格好いい車に乗せてもらった。大きくてピカピカで、少しくすんだスカイブルーのオープンカーだった。ママの友だちだと運転手が言って、ブルーはそれを信じた。
海を見に行こうと言われて、遠くへと車は走った。
どれぐらい走ったのかわからない。
気がつくと、海ではなくて湿地の近くの農場に着いていた。
そして運転手はブルーを下ろして言った。
「何でも簡単に信じるんじゃない」
ブルーはそれから6年間、その農場で暮らした。
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