10 Training 研修

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 ブルーは裏口から中に入り、カウンターまで戻った。そして店の中を眺める。  商品棚はそう高くないから、店全体を見ることができるが、死角は少しずつある。たまに万引被害に遭うのは想像できた。店主はこの辺の学生の客のことは熟知しているに違いない。カウンターには防犯用の銃が用意してある。ライフルとハンドガンってのは重武装気味だが、クマも出そうな、こんな田舎じゃ必須だよなとブルーは思う。  その横に誤発注みたいにチョコバーの箱が積んである。こんな小さい店でははけるのに何ヶ月もかかるんじゃないかと思う量だ。 「うちの脱税でも調べてるの? 悪い子たちを連れてきてくれるんじゃないの?」  アヤが言い、ブルーは彼女を振り返った。 「こそ泥君たちは、常連じゃなかったんですよね。監視カメラを見てもわかんなかった。だから5日も過ぎてからフランキーに頼んだんですね」 「そう言わなかった?」 「近所の子じゃないかも、って言ってくれたら、もうちょっと範囲は狭まって仕事が楽になるんですけど」 「言い忘れてたみたい。近所の子じゃなさそうなの」 「スクーターだし、まぁまぁの距離が範囲になりますね。他に何か言い忘れてたことないですか?」  アヤは棚にもたれ、腕組みをする。表情が少し硬い。 「他に? 例えば?」  ブルーは唇をなめた。なんだこの緊張感。  こんな雰囲気を出す奴をブルーはたくさん知っている。 「実はあなたはサンタクロースで、雑貨店は身分を偽るための商売、とか」 「面白いわね」  アヤはニコリともせずにうなずく。  違うみたいだ。  ブルーは足元の四角いドアを見た。地下収納か、もしくは地下室の出入り口。これもまた別にこの辺じゃ珍しくない。だって雪で道が閉鎖されてしまうことがあるから、収納庫に食料や飲料をたっぷり置いておくのは普通の危機管理だ。  人里離れた雑貨屋の地下が誰かの金庫代わりに使われてるとしても、誰も疑わない。  まずいものを出し入れしてるのを見られたか、何か証拠品を取られたか。  よくわからないが、どっちにしろ、アヤは善良なだけの店主じゃない。侵入犯を見つけたらギャングか何かに教える気なのかもしれない。それはまずい。侵入犯は怯えて黙り込んでる。今逃げ切れても、もし相手がマズイ奴らだったら、そこいらの素人はまず逃げ切れない。  フランキーはどこまで知ってて研修に使ってんだ?  ブルーは肩をすくめた。 「ありがとうございました。じゃぁそろそろ町に出て、足を使って探してみます。スケートリンクか、ゲームセンターか、あるいは孫たちが訪ねてきて嬉しそうな老夫婦の家とかを訪ねてみたら、すぐにわかるかも」 「ねぇ、UPの非正規職員って本当?」  アヤが裏口への進路を塞ぐ。  ブルーはカウンターの外に歩いて出ながら肩をすくめた。 「そんなこと言いましたっけ?」 「フランキーの甥か何かだと思ってた」  アヤがリモコンで正面出入口のロックをかけた。ブルーはカウンターを挟んで彼女と向かい合う。 「なんで閉じ込めるんです? 外に出ないと探せない」 「上着を脱いでここにスマホを出して。あとポケットの中のものも全部」 「なんで?」 「考える時間がほしいから」 「何を考えるんですか?」  ブルーは上着を脱ぎながら聞いた。カウンターにスマートフォンを置く。ジーンズのポケットの中に入れていた小銭を出した。 「靴も脱いで」  ブルーはそう言われて息をついた。仕方なく靴を脱ぐ。 「裸足で雪の中を歩けって?」 「UPの捜査官の靴にはGPSがついてるって噂」 「それは都市伝説だよ。俺は非正規職員だし、正規職員の靴にもついてない」 「こっちに来て」  アヤがカウンター下のハンドガンを持って手招きし、ブルーは一歩前に出た。 「テープを取って、自分の口を塞いで」 「ちょっと待って。俺はまだ何も知らないかもしれないんですよ」 「どうせ知ってても、知らなくても、正直に喋らないんだから同じでしょ。テープを取って」  ブルーは息をつき、灰色のテープを取るとビリっと伸ばして切った。  口を封じた後、アヤはブルーの手首も背中側でテープで縛った。 「配達があるの。付き合ってくれる?」  アヤが断れない頼みをして、ブルーは彼女のピックアップトラックに乗った。
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