9人が本棚に入れています
本棚に追加
自宅に戻ったフランキーは、ブルーが店の周りをぐるぐると歩き回っているのを見た。実際にはPC上の任意の点Pだ。コントロールの効かない点Pは、課題を理解しているのかしていないのか、下町へと移動する気配がない。
監視カメラの画像を見て、アヤに話を聞き、現場検証を行い、店の周囲を10回見直して、昼飯を食べながら電話してきて泣き言を言い、それからさらに何度か店の周りを歩いて、それからようやく移動し始めたのでフランキーはホッとした。
同時にブルーが何に引っかかっていたのかが気になった。何かミスリードしてしまうようなものがあっただろうか。
フランキーはブルーが手に入れたものと同じ監視カメラの映像を見た。
問題は特になさそうに思える。
おそらくブルーも過去の映像を見て、先週忍び込んだのが、窃盗が初めての中学生たちだとわかったはずだ。顔までははっきりわからなくても、背格好と歩き方、歩幅や動きの癖だって手に入れたはず。
彼らは調子に乗って盗みに入ったものの、うまく行き過ぎて後から恐ろしくなり、SNSなどには全く乗せずに息を潜めている。
大した窃盗ではないとはいえ、説教ぐらいはしたい。犯罪として扱わなくていいから、侵入者を見つけてほしいとアヤに頼まれていたから、それをフランキーはブルーの課題にした。一石二鳥というやつだ。
麓に広がる町の中から、侵入した彼らを探し出すのは簡単じゃないだろうが、ブルーなら日暮れ前の数時間で見つけるに違いない。少なくとも一人を探し出せれば合格にしようとフランキーは思っていた。
が、ブルーはフランキーが予想するのとは違う方向へと進む。
おいおい、そっちは山だ。学生なんているわけない。どこに行く気だ?
フランキーは眉を寄せた。
点Pは凍てつく西の雪山へと向かっていく。そして道が急カーブしているところで、崖下方向へと移動した。そして止まる。
どういうことだ。あいつは研修が嫌になってスマートフォンを谷に投げたのか?
アヤは近くの山にブルーのスマートフォンを捨てた後、それとは全く違う方向の山道の先にトラックを進めた。そしてつづら折りの道を何度か曲がった後に車を停めた。
そしてブルーを下ろすと、道の脇に立たせた。
ブルーは靴下のままだった。凍った雪が冷たい。
「そこを降りて。人は撃ちたくないの」
ブルーは崖下を見た。そう高くはない。3メートルほど。雪があるから、もしかしたら怪我ぐらいで済むかも。
アヤは銃を使うつもりは本当にないらしく、もしかしたらモデルガンなのかもしれなかった。だとしてもブルーには脅威で、どっちを選ぶかというと雪の崖を飛び降り、凍死する前に下山するというのが理想的に思えた。
「早く」
アヤがトラックの運転席でエンジンをかけながら言い、ブルーはトラックに踏み潰される前に、崖を滑り降りた。
ひっくり返って木立で体と頭を打ち、落ちきったところで、深い雪溜まりに落ちたが、5分ほどで抜け出せた。あとはもう、薄っぺらい安い長袖シャツとフリースとジーンズ、それと凍りかけている靴下で、降り積もる雪の中でどれぐらい生きられるかって話になる。
さらに10分ほどかけて、ブルーは背中で手首をねじり、テープを千切った。雪の水分とブルーの体温で、テープの粘着力がかなり弱ってくれて助かった。口のテープは既に剥がれかけていたからすぐに取れた。
足の指も手の指もかじかんでいて、ブルーは雪雲が覆っている空を仰いだ。灰色の空に白い粉雪が舞っていて、周囲の音を消す。
ブルーは灰色のテープを近くの木の枝に巻いた。
これは俺の研修じゃない。フランキーの久々の実戦だ。
最初のコメントを投稿しよう!