10 Training 研修

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 自宅に戻ったフランキーは、ブルーが店の周りをぐるぐると歩き回っているのを見た。実際にはPC上の任意の点Pだ。コントロールの効かない点Pは、課題を理解しているのかしていないのか、下町へと移動する気配がない。  監視カメラの画像を見て、アヤに話を聞き、現場検証を行い、店の周囲を10回見直して、昼飯を食べながら電話してきて泣き言を言い、それからさらに何度か店の周りを歩いて、それからようやく移動し始めたのでフランキーはホッとした。  同時にブルーが何に引っかかっていたのかが気になった。何かミスリードしてしまうようなものがあっただろうか。  フランキーはブルーが手に入れたものと同じ監視カメラの映像を見た。  問題は特になさそうに思える。  おそらくブルーも過去の映像を見て、先週忍び込んだのが、窃盗が初めての中学生たちだとわかったはずだ。顔までははっきりわからなくても、背格好と歩き方、歩幅や動きの癖だって手に入れたはず。  彼らは調子に乗って盗みに入ったものの、うまく行き過ぎて後から恐ろしくなり、SNSなどには全く乗せずに息を潜めている。  大した窃盗ではないとはいえ、説教ぐらいはしたい。犯罪として扱わなくていいから、侵入者を見つけてほしいとアヤに頼まれていたから、それをフランキーはブルーの課題にした。一石二鳥というやつだ。  麓に広がる町の中から、侵入した彼らを探し出すのは簡単じゃないだろうが、ブルーなら日暮れ前の数時間で見つけるに違いない。少なくとも一人を探し出せれば合格にしようとフランキーは思っていた。  が、ブルーはフランキーが予想するのとは違う方向へと進む。  おいおい、そっちは山だ。学生なんているわけない。どこに行く気だ?  フランキーは眉を寄せた。  点Pは凍てつく西の雪山へと向かっていく。そして道が急カーブしているところで、崖下方向へと移動した。そして止まる。  どういうことだ。あいつは研修が嫌になってスマートフォンを谷に投げたのか?  アヤは近くの山にブルーのスマートフォンを捨てた後、それとは全く違う方向の山道の先にトラックを進めた。そしてつづら折りの道を何度か曲がった後に車を停めた。  そしてブルーを下ろすと、道の脇に立たせた。  ブルーは靴下のままだった。凍った雪が冷たい。 「そこを降りて。人は撃ちたくないの」  ブルーは崖下を見た。そう高くはない。3メートルほど。雪があるから、もしかしたら怪我ぐらいで済むかも。  アヤは銃を使うつもりは本当にないらしく、もしかしたらモデルガンなのかもしれなかった。だとしてもブルーには脅威で、どっちを選ぶかというと雪の崖を飛び降り、凍死する前に下山するというのが理想的に思えた。 「早く」  アヤがトラックの運転席でエンジンをかけながら言い、ブルーはトラックに踏み潰される前に、崖を滑り降りた。  ひっくり返って木立で体と頭を打ち、落ちきったところで、深い雪溜まりに落ちたが、5分ほどで抜け出せた。あとはもう、薄っぺらい安い長袖シャツとフリースとジーンズ、それと凍りかけている靴下で、降り積もる雪の中でどれぐらい生きられるかって話になる。  さらに10分ほどかけて、ブルーは背中で手首をねじり、テープを千切った。雪の水分とブルーの体温で、テープの粘着力がかなり弱ってくれて助かった。口のテープは既に剥がれかけていたからすぐに取れた。  足の指も手の指もかじかんでいて、ブルーは雪雲が覆っている空を仰いだ。灰色の空に白い粉雪が舞っていて、周囲の音を消す。  ブルーは灰色のテープを近くの木の枝に巻いた。  これは俺の研修じゃない。フランキーの久々の実戦だ。
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