10 Training 研修

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 高さ3メートルの坂を登ればある程度の道があることはわかっている。トラックが走れたんだから、きっと辿れば町に出られるのだろうけど、そこまで体力がもつかブルーには自信がなかった。それでも一番いい選択のような気がした。この下に向かっても迷い込むだけにしか思えない。  ブルーは凍りついた雪の壁を登ろうとして、何度か滑り落ちた。3回やって指先がうまく動かなくなって諦めた。  もっと楽に上がれるところがあるはずだ。たぶん。きっと。  ブルーは横移動を始めた。  でも少し歩いているうちに、バカなことをしている気もした。セオリーとして移動ってのはマズイんじゃないか?  ブルーは白い息を吐き、辺りを見た。谷になっている部分なので、既に辺りはもう日陰だった。黒い木々と白い雪のコントラストが続く。先の方は濃い灰色だ。あっちはマズイ。  ブルーは日向になっている部分を探し、暖を取ろうとした。そして考える。  夜に備えるつもりなら、まずは柔らかい雪を探して、雪洞を作るのがベストだ。  おいマジかよ、俺。夜に備えるつもりか?  フランキーがアヤズ・ストアに電話してみると、彼女は店にいなかった。  仕方がないから車を出して向かってみると、店の手前で彼女のピックアップトラックと合流した。配達に行っていたという。 「アヤ、うちの名探偵はその後、どうした?」  彼女に聞くと、アヤは首を捻った。 「うちのライスボール食べた後、どこかに出ていったわよ。犯人がどこにいるかひらめいたんじゃない?」 「スマホの位置情報は、山で止まってるんだ。そっちに行ったの見たかな?」 「どうかしら。私は店にいたから」 「OK、サンキュー。ちょっとこの辺、見てみる」  フランキーはアヤに手を上げた。  彼女が店に戻っていき、フランキーは彼女のピックアップトラックの助手席側のドアを見た。  全く、手癖の悪い生徒だ。  フランキーは噛んだミントガムがドアウインドウの端にくっついているのを見た。  ブルーはフランキーの追跡技術を知っている。だから、どうすれば追跡されるかもわかっている。きっとできる限り痕跡を残そうと努力したはずだ。ガムもしかり。  フランキーはUPに連絡し、アヤの監視と、ヘリの出動を依頼した。  とはいえ、到着はもう少し後になるだろう。緊急性が低い上、ブルーが研修から逃げ出した可能性がゼロではないからだ。素行の良くない生徒を持つと苦労する。  仕方ない。  フランキーは自宅に戻り、服と毛布と水分とカロリーバーを掴んでリュックに入れた。あと役に立ちそうなロープや緊急用の医療キットも突っ込む。保温中のコーヒーも保温水筒に入れた。それから200メートル先の猟師仲間の家に行き、愛犬ドビーの手を借りたいと申し出た。  若い友人が雪山で遭難したかもしれないと話すと、それを聞いた隣人ダニエルは協力を申し出てくれた。もちろんドビーも一緒に探すという。  フランキーはブルーがベッドに放り出していたままの服を掴んで、ドビーに匂いを覚えさせ、アヤのピックアップトラックが降りてきた方向へと自分の車を走らせた。それはスマートフォンが示す位置情報とは違っていたが、自分の勘を信じる。  ブルーはシャツと軽いフリースジャンパー、アーミージャケットで店に来た。雪山に戻るのではなく、町に出るのであれば、問題ない服装だった。ただしそのまま外で夜を過ごす予定じゃない。  想定していた残り時間は日暮れまでの3時間。  雪山の中にいるとすれば、そして怪我でもしてれば、時間はもっと短くなる。  あいつにGPSを埋め込んでおくんだったな。  フランキーはそう思いながら時計を見た。最悪、1時間で探し出す。
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