10 Training 研修

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 不自然な雪の形を見つけたのは、それから数分後だった。  タイヤを切ったような雪の痕がある。尖った雪の角を見て、フランキーは崖の下を見た。 「ブルー!」  呼んでみるが返事はない。最悪、返事はなくてもいい。体力を温存しているなら、応じる必要もないからだ。その場で希望だけ持っていればいい。  アリスから電話が入って、フランキーは現状報告をした。  アリスは冷静だった。お願いだから発見して。そう言って自分もそちらに向かうと電話を切った。 「ドビー!」  電話をしている間に猟犬が吠え出し、ダニエルがフランキーを見た。  フランキーは電話をポケットに戻すと、ドビーが吠えている方を見た。ハンティングに連れて行ったとき、ブルーには入るなと警告したような雪溜まりのある林だ。  フランキーは崖の先に灰色のテープが木の枝に貼り付けられているのを見た。その上に雪はついておらず、それがブルーの痕跡であることは確かだった。 「ここか?」  ダニエルが聞いて、フランキーはその根拠を教えた。 「やるな、坊主」  感嘆するようにダニエルが言い、フランキーはうなずいた。  フランキーはダニエルと協力して滑り落ちそうな崖を慎重に降りた。ドビーは途中までダニエルに抱えられていたが、途中でひょいと抜け出して雪の中を走って行った。 「ドビー! 見つけたのか?」  フランキーは雪の中を追いかけた。もう深い雪の中を走り回るほど元気ではないが、ブルーのためなら無理もする。  ドビーがキャンキャンと鳴いて嬉しそうに戻ってきた。 「何だこれ」  ダニエルがドビーが咥えているものを受け取った。 「靴下?」  フランキーはブルーの今日の靴下なんて記憶していなかった。が、積もった雪の上にある靴下をドビーが見つけてきたんだから、それは最近落とされたものというのは間違いない。 「ドビー、よくやった。これはどこにあった?」  ドビーは嬉しそうに駆けていく。 「ちょっと待ってくれ。こっちは年寄りなんだ」  2人は息が上がるのを感じながら、ドビーが進んだ方向へと急いだ。  ドビーがもう片方の靴下を見つけ、フランキーは焦った。奴は裸足なのか?  そう思った時、ドビーが木と木の間に鼻を突っ込んだ。  フランキーはドビーが引っ張り出そうとしているジーンズの裾を見て、無我夢中で近づいた。 「ブルー!」  雪に体を半分突っ込んでいたが、確かにブルーだった。体を縮めて転がっているところを、名犬ドビーに足を引き出されたようだった。 「やったな!」  ダニエルが喜んだが、フランキーはまだ喜べなかった。ブルーの反応が弱い。  フランキーはブルーのジャケットがないことに驚愕しながらも、彼の体の雪を払った。リュックからレスキューシートを出して包み込み、毛布でさらに包む。とにかく体温を上げることが必要だった。ダニエルも手伝ってくれて助かった。 「ブルー、しっかりしろ。助けてやるからな」  フランキーはブルーの顔を擦った。ブルーは浅い息をしていたが、目はうっすらと開いた。  よし、辛うじて意識はある。  フランキーは寝袋を開いてブルーの足を入れた。ブルーが体を動かそうとしたので、フランキーは止めた。 「ブルー、動かなくていい。そのままじっとしてろ」  そう言うとブルーはフランキーの腕に身を委ねた。フランキーは毛布に包んだブルーを慎重に寝袋に入れ、すぐに地元警察とUPに再連絡を入れた。 「ドビー、ブルーを温めてやれ」  ダニエルがドビーをブルーのすぐ横に置いた。天然の湯たんぽだ。  フランキーは折りたたみ水筒に保温水筒のコーヒーを入れて湯たんぽも作った。時間がなかったら量が十分じゃないが、仕方ない。それでもブルーの心臓を温めるぐらいの役には立つ。 「もう大丈夫だからな。がんばれ」  2人と一匹は救急隊がやってくるまでブルーを励まし続けた。
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