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1 Tracking 追跡
世界は以前よりも少し暮らしにくくなった。
前は考える必要がなかった。ただ生きることに尽力するだけで良かったのに、今は考えないと生きていけない。情報はとても増え、選択肢もとても増えたが、それが自由になったようには思えないのが現実だった。人々の付き合いは広がったのに、そのせいで揉め事も増えたらしい。
人類はハッピーになったんだか、なってないんだか。
そうやってどれだけ世界が変わっても、秋が深まると木々は色づくし、日が沈むのは早くなり、気温は夜に向かってぐんぐん下がる。どれだけテクノロジーが進んでも、人間は気温の変化にそう強くない。暗視スコープでもなければ、人は暗くなっていく景色をはっきり見ることができない。
入り口に警備員までいる富裕層向けの森林公園で、デイキャンプを楽しもうと郊外の山にやってきた家族4人のうち、2人は7歳と5歳の子どもだった。5歳がいなくなったことに気づいたのは、ランチとティータイムを経て、帰り支度を終えたときだった。両親はレジャーシートを片付け、アウトドアチェアを車に乗せて、子どもたちを呼び戻した。近くでどんぐり拾いをしていたはずの姉弟のうち、7歳の姉しか戻ってこなかった。驚いた母親が「弟は」と聞くと、姉は「ママたちのところに戻るって言った」と答えた。
最初は両親も、すぐそこにいるだろうと思った。名前を呼び、近くを分担して探した。
しかし見つからない。10分、15分。
両親は焦り始めた。
30分過ぎて、日が傾いてきた。山の日没は早い。
そこからはパニックだ。
父親は通報し、母親は弟の名を呼びながら、辺りを探し回った。
よくわからないながら、両親の不穏な空気に7歳も泣き出す。
警察官が10人ほどと地元のボランティアが同じぐらい来た。
みんなで辺りを探したが、すっかり暗くなった2時間が過ぎてもトーマスは見つからなかった。捜索犬も到着したが、今のところは芳しい成果が上がっていない。
不幸なことに、今晩からは低気圧が近づき、気温も下がると予報が出ていた。
「走り回っていたから、上着を脱いでたらしいの。もし川を通ったり、雨に降られて濡れたら体温が下がりすぎる」
午後7時を過ぎて、現場に到着した連合警察(UP)のアリスは警察官たちに状況を聞いて息をついた。今からアリスが捜索隊の指揮を取ることになる。
「犬が追えないってことは、川を超えたってことでしょうか?」
部下のルイスがあごひげを触りながら眉を寄せて言う。
「かもね。ブルーは呼んだ?」
「呼びました。ミキが迎えに行ってます。もうすぐ着くと思います」
ルイスは軽く肩をすくめた。
アリスは腕組みをして、強い光でライトアップされた山を見つめた。
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