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「…………」
「……図星、ですか」
夫は何も答えない、俯いて私と視線を合わせないようにしているということはそういうことなんでしょう。馬鹿馬鹿しくなる、今まで必死で彼が私を女性として見てくれるまで努力してきたことはすべて無意味だったのだ。
一途に夫を愛し、彼を信じて暮らしてきたのに。岳紘さんの心はとっくに別の女性へと向かっていたのか。
「離婚は考えてないんですか? こんなルールを作るよりその方がずっとお互いにためになるのでは?」
どうしてだろう? こんな状況なのに涙の一滴も出てくる気配はない。むしろ目と喉が乾いて頭の中がぼんやりする、思考回路が鈍っているような気がした。
夫婦としての触れ合いがなかったこと以外、問題のない関係だった。でもやはり、私たちは表面だけの夫婦にすぎなかったと言うことなのかもしれない。
「……離婚は、嫌だ」
「どうしてですか?」
中途半端な夫婦関係を続け、他の相手と愛を交わすなんて私には理解できない。それが私のためになるとも思えないし、そのうち苦しくなるのが目に見えている。
……それなのに。
「雫との離婚は考えてない、これからも考えるつもりはない」
「……?」
夫の岳紘さんは以外と頑固なところがある、こう言い出したらすぐには意見を変えないだろう。その理由に心当たりがないわけではなく、私は小さくため息をついた。
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