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電球色の照明が、暖かさを醸し出している喫茶店があった。
不意に鳴ったドアベルが、来客を知らせる。
一人の少女が、店に入って来たのだ。
まるで、野の花のように優しい雰囲気を纏う少女。
少女は、肩まで伸ばした艶やかな黒髪に縁取られた顔立ちは整っており、瞳は大きく綺麗な二重瞼をしている。
身長は高くも低くもなく、腰はくびれ脚は長くすらっとしていたが、胸元の膨らみは小さく華奢だった。
名前を三国初穂といい、高校一年生だ。
狭い店内を初穂が見やると、一人の少年の姿を片隅に見つける。
サラサラとした髪をしており、鼻筋が通った端正な顔をしてはいたが、決して美少年ではなかった。
どちらかと言えば、気弱で優しげな雰囲気の顔つきをしている。
柔和な、おっとりとした目元をした少年だ。
初穂は、その少年を知っていた。
でも、名前は知らなかった。
ただ、知っているだけだ。
「お久しぶりです」
初穂が頭を下げると、少年は微笑みながら席に着くように促す。初穂は、向かい側の椅子に座った。
「ごめんね、急に連絡して」
「いえ」
初穂は、首を振る。少し緊張した面持ちで、目の前にいる少年を見つめて少し俯く。
二人が出会ったのは、一週間前のこと。
初穂はバスで通学をしていたのだが、降車時になって初穂は通学定期券が無いことに気がついた。財布を確認するが持ち合わせも少なく、困り果てていた時に声をかけてくれたのが、この少年だった。
少年は自分の財布を開くと、初穂の乗車賃を全額入れてくれたのだ。初穂は、生徒手帳に自分の携帯番号を書いて少年に渡した。
「お金は、お返しします。こちらに、ご連絡下さい」
そう言って、その場を去った。すぐに初穂は、軽率なことをしてしまったのではと思った。
自分の携帯番号を、名前も知らない男性に渡したのだ。
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