万全のアフターサービス

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 いかにもヤバい事務所へ出向き、見るからにヤバいやつらに相談したところ、なんと五百万の審査に合格し、思わず「ウソでしょ?」と言いそうになってヤバかった。  ドンと置かれた札束の向こうに凶悪な笑みが見える。 「いいか。持ち逃げしようなんて考えないことだな」  あらゆる角度から写真を撮られ、辞書みたいなごつい装置を手首にはめられた。重いし、かさばるし、不恰好だ。事務所から出たら取っちまおう。 「おい、こいつを外そうとするんじゃないぞ」  すっかり考えを見抜かれていたことにビビってしまい、「しません、しません」と連呼した。 「あの、この機械を外そうとしたら、どうなるんですか?」 「留め具をいじった瞬間、麻酔が打ちこまれる」 「そんな仕掛けがあるなんて……」  鈍い銀に光る武骨な腕輪に見入ってしまった。 「おまえみたいな野良犬が知らない間に、世の中、進んでるんだよ」  そうだな。AI搭載のアンドロイドが登場するくらいだからな。 「俺を麻酔で眠らせて、どうするつもりなんですか?」 「回収してカイタイする」  カイタイ……。これがバラバラにする「解体」という漢字に結びつくまで、しばらく時間がかかった。 「おまえの居場所は二十四時間、オレたちの組織に把握されている。こいつには、GPSが組み込まれているからな。それに、おまえの顔は割れてるんだ。逃げられるだなんて思うなよ」  道理で、バカスカ写真を撮ったわけだ。 「トイチの利息だ。まずは十日後、一割を返せ。それができないと、わかってるな」  五百万にたっぷりの脅しを添えて、俺は解放された。どうあがいても、初回の利子すら返せない。  俺に金を貸したやつらは、期限になれば喜々として俺を切り刻み、闇のシンジケートに各種臓器を流して資金を回収するに違いない。なんせ、「解体」なんて言葉を、なんの詰まりもなく使うぐらいだ。  そんな裏でもないと、五百万なんて大金を、俺になんかわたすわけがない。  ま、俺には借金を返すだなんて、どうだっていいことだ。なんせ、アンドロイドと一緒に死ぬんだし。まさかやつらも、俺が最初っから死ぬ気でいるなんて、想像もしなかっただろうな。  お、いいことを思いついたぞ。海で死のう。あいつらに、いっぱい食わせてやるんだ。  ボートで沖まで行って、アンドロイドと縄でぐるぐる巻きになって飛びこむ。機械だから相当に重いはずだ。すみやかに、深い深い海の底へと到着するだろう。  となると、俺の死体は回収不能。なんにも手に入らなくて、悪いやつらは丸損。はは、いい気味だ。  さ、俺を天国に導いてくれるアンドロイドちゃんを買いに行くか。
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