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卑屈になって、世の中を恨んで、自分も嫌いになって、どうでもいいってなって、
そういった心情が現れていることが智也にとっては不快だったのだ。
もちろん、自分が勝手に想像してあれこれ描いているだけだけれども、
この女を見ていて、
不愉快に思う自分が間違いなくいることはわかった。
そのうえ、ザラザラした声の、音も取れていない下手な歌声が、大音量で廊下に響くのが、不愉快たまらなかったのである。
智也は思った。
「どんまい」と。
俺には関係のない話だ。
自分が「不細工である」と思っているのなら、そうやって生きればいい。
世の中は不公平で不条理だが、絶対に自分は諦めない。
自分自身に諦めない。
そんなことを思った。
部屋にビールを運ぶと、女は中空を見て歌っていた。
智也は黙ってテーブルにビールを置いた。
ほんの少し、ビールの泡が少なくなっているのが見えた。
「ごゆっくりどうぞ」
智也は笑顔でそう言った。
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