記憶怪盗

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再び彼は精神世界(インナースペース)を移動し、今度は依頼人の精神(こころ)に繋がるドアの前に立つ。 「失礼いたします」 コンコンとドアを叩くと、内側からドアが開いた。 顔を覗かせたのは依頼人である青年。 「ご依頼の完了報告に参りました」 「中へどうぞ」 青年と記憶怪盗は共に精神の深部めがけて跳ぶ。 精神の持ち主と共にいるため、警報装置も迎撃システムも今は作動しない。 故にすんなりと精神の最深部に降り立った彼は、右手に持った記憶入りのカプセルを依頼人に差し出す。 「こちらの記憶ですが、ご依頼通り破棄させていただいて宜しいですか?」 青年は頷く。 「お願いします」 恋人が幼い頃、実の親から虐待を受けていた記憶を盗みだして欲しい。 そして養父母に愛された記憶とすり替え、辛い記憶は破棄して欲しい。 それが青年の依頼内容だった。 優しい養父母からは充分すぎるほど愛を注いでもらい健やかに育ったものの、精神の奥深くに刻み込まれた辛い記憶は容易に拭い去れるものではなく、なかなかプロポーズを受けてもらえなかったそうだ。 精神に繋がるドアの前まで戻り、記憶怪盗は深々とお辞儀する。 「おふたりのこれからの幸せを陰ながらお祈りしております」 青年も頭を下げた 「彼女とふたりで幸せになります。……ありがとうございました」
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