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精神世界の片隅にあるアジトに戻った彼は、記憶が入ったカプセルを粉砕装置に投げ入れた。
音を立てて粉末状になるまで砕かれていくカプセル。これでもう、彼女が辛い記憶に苦しめられることは二度とない。
シルクハットとステッキをガラスケースに収め、アジトから引き上げようとしたその時。
「……どちらさまですか?」
暗闇にひそむ影に向かって声をかけると、セーラー服を着た少女が明かりの下に出てきた。
「あの、記憶泥棒さん……ですか?」
「記憶怪盗です」
ごめんなさいと謝ってから少女はおずおずと続けた。
「記憶怪盗さん、依頼したいことがあるんですけど」
少女の名は西藤優花と言った。
年は16。セーラー服はどうやら高校の制服らしい。
応接間のシャンデリアの下、自分のものと向かい合う位置にある一人掛けのソファをすすめると、彼女は素直に腰掛けた。
「……で、どうやってここに忍びこんだのですか?」
「えーと……依頼の仕方がわからなくて途方にくれてたら、なんとなく?」
通常、アジトには不法侵入されないよう、厳重にプロテクトをかけてある。
ただし例外がひとつ。記憶怪盗、もしくは記憶怪盗になる資質を持つ者についてはアジトの方から迎え入れにくるのだ。
彼自身もそうしてアジトに招かれ、先代から記憶怪盗の名を引き継いだ。
つまりは、年端もいかぬこの少女が、自分の後継者かも知れないということ。
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