記憶怪盗

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「普通、強く願えば依頼が伝書鳩の形をとってわたくしの許まで届くのですが……まあよろしいでしょう」 優花が次代の記憶怪盗かも知れないことを、彼は口にしなかった。 まだ16才の女子高生。彼女の未来には無限の可能性がある。 裏の世界に引きずりこんでいい道理はない。 「……で、どんなご依頼なのでしょうか?」 「別れた彼氏の記憶を盗んで欲しいの」 なんてベタな依頼なんだ、という感情が面に出ていたのだろうか。 彼女は必死な表情で言葉を継ぐ。 「だって、別々の高校に進学してすぐ、他に好きな子が出来たから、って別れ話されたんだよ。納得できないじゃん」 「失礼ながら、あなたの年頃の恋などすぐに冷める熱病のようなもの。お嬢さんも他に好きな殿方を見つければ良いだけの話では?」 暗に依頼を断ろうとした一言で、彼女は激昂した。 「バカにしないでよ!にとってはその程度の話だろうけど、あたしは真剣に好きだったの!ごめん別れようの一言で諦めきれるようなものじゃなかったの!」 その目には“断るなんて許さない”と言わんばかりの強い意志が宿っている。 確かに、自分は若いからと彼女を無意識に侮っていたのかもしれない。 「無神経な発言、大変失礼いたしました」 即座に詫びた記憶怪盗に、“いいよ、許したげる”と言って笑いかけた優花は更に話を続ける。 「それにただ盗めとは言わないよ」 彼女が口にしたのは思いもよらない一言だった。 「あたしも盗みの現場に同行させて。盗むかどうかは自分の目で見て決める」 「……は?」 驚きのあまり、普段より1オクターブ高い声が出た。
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