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翌日の夜。
「キャーッ!!」
精神世界に優花の叫び声が響く。
「なんで目隠しした上、お米さま抱っこされなきゃいけないのよこの変態オヤジ!!」
記憶を盗むプロセスは企業秘密。故に記憶を目にすることが出来る精神の最深部に到達するまでは、目隠しをする条件で同行を許可した。
しかし先ほどから、やれ臀部に手が触れただの、スケベだのと、大声で叫んでばかり。
挙げ句変態オヤジ扱いとは、理不尽がすぎる。
「騒音は仕事の邪魔になります。静かにしないならアジトに戻って強制的に閉じこめますよ」
淡々とした警告で、ようやく彼女は口をつぐんだ。
優花を肩に担いだまま、記憶怪盗は軽々と宙を舞う。
今夜の獲物の精神につながるドアの前に立ち、レイピアに変形させた仕事道具を左手に握る。
「お邪魔いたします」
一礼し、レイピアの切っ先で錠前を解除する。そして素早く内側に忍びこみ、彼は優花と共に精神の中めがけて跳んだ。
いつものように警報装置を解除、あるいはくぐり抜けながら、第一階層から第十二階層まで突破した彼は精神の最深部に降り立つ。
そして優花をそっと肩から下ろし、彼女の目隠しを外した。
映画のフイルムのように宙に浮かび流れる記憶。
中学の卒業式。笑顔で写真を撮影する彼と優花。
勉学に部活、新しい環境に順応しようと必死に頑張る彼。
『元気?』
『どうして連絡くれないの?』
『寂しいよ』
優花からのメッセージを見て、深くため息をつく彼。
彼が目で追うクラスメイトの女の子は、ふんわり優しい笑顔の持ち主だった。
隣に立つ優花は、嗚咽をもらさないよう唇をかみながら、はらはらと大粒の涙をこぼしている。
“彼の記憶を盗みますか?”
透明なカプセルを掲げ、声には出さず唇の動きだけで訊ねると、彼女は大きく首を横に振った。
記憶怪盗は無言のまま彼女の涙を拭い、もう一度目隠しをつける。
そして、今度は優花をお姫さま抱っこして、宙へと飛び上がった。
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