記憶怪盗

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アジトに戻る間も記憶怪盗に抱きかかえられたまま、優花はずっとしゃくりあげていた。 しゃくりあげながら、ひとりごとみたいにポツリと呟く。 「あたしって、重い女だったんだね」 「そりゃフラれるわけだ」 記憶怪盗はあえて返事をせずに、そのまま彼女を泣かせておいた。 簡単には諦めきれない想いを、自ら断ち切る決意をしたのだ。 の下手な慰めの言葉より、泣いた方がはるかにすっきりするだろう。 アジトに戻り、彼女が落ち着いた頃合いを見て記憶怪盗は声をかけた。 「ご依頼は取り消しということで宜しいですか?」 目は真っ赤に充血していたが、彼女は笑顔で頷く。 「うん。諦めついたから、大丈夫。……その代わり、ひとつお願い。あたしのこと怪盗さんの助手にしてもらえない?」 「あいにく、助手は募集しておりませんが、一応志望理由を教えていただけますか?」 「怪盗さんが、あたしの大事なもの盗んだから……かな?」 自分の左胸を指さして、彼女はニカッと笑う。 記憶怪盗は真顔で即答した。 「……お断りします」 だが、彼女は一向に取り合わない。 「あたし重い女だから、はいって言うまでついてくからね」 「それはつきまとい、あるいはストーキングと言われる行為ですよ。お嬢さん」 「怪盗さんひどぉい」 「……いいから腕を離してください」 「やだ」 ……まったく。 失恋の反動でやけくそになっているのか、開き直った女子高生ほど厄介なものはない。 あれだけ呼ばわりした相手に好意を抱くとか、いくらなんでも切り替えが早すぎやしないか? だいたい、なんでわざわざ自分から裏の世界に飛び込もうとするんだ、この子は。 記憶怪盗は深いため息をついた。
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