ABANIKO・齋藤 善治郎

1/2
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ

ABANIKO・齋藤 善治郎

 その日在籍しているアマチュアバンドのリーダー齋藤 善治郎(さいとう ぜんじろう)に、突然呼び出された中里 涼夜(なかざと すずや)は、よくバンドの『会議』に使う馴染みのファミレスを訪れた。  てっきり善治郎一人が待っているのだと予想していたものの、メンバー全員が集合しており、予定は組まれていなかったものの、話が済んだら練習スタジオで新曲の音合わせに入るのかな? と、愛器(ギター)を担いで来たことを幸いに思いながら、居住まいを正し、口を開いた善治郎に注目した。  かれこれ一時間にも及ぶ話し合いを終え、ファミレスを後にした涼夜は、苛立ち紛れに舌打ちを二度ほど打ち、小走りにその場を離れながら、最寄り駅へ繋がる商店街のアーケードに差し掛かると、漸く速や足を緩めながら、左肩に担いだギターケースを右肩へ担ぎ直した。 (ふざんなよ──)  ファミレスに呼び出され、善治郎に聞かされた話を思い返せば、涼夜の胸にモヤモヤと黒い思いが渦巻いた。  涼夜が善治郎のアマチュアバンド『ABANIKO(アバニコ)』のギタリストとして抜擢されたのは、中学へ入学する頃、厳密には未だ小学六年生の頃だった。  友人の兄貴の先輩がバンドリーダーをやっていると聞き、趣味でギターを弄っていた涼夜は興味を持ち、イベントの余興的にだが郊外のライブハウスでギグが有ると聞き付け、友人に頼み込んでライブハウスを訪れた。  勿論涼夜にとってそれは生まれて初めての経験で、ライブ後は激音に驚いた耳は暫くバカになり、連れ立ってやって来た友人と顔を見合わせ苦笑いするも、涼夜は興奮と感動に今までに無い高揚感に満たされている自分に気付いた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!