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北条 将斗
週半ばの学校帰り、駅前の楽器店を訪れた涼夜は顔馴染みの店員と、最近新譜を出した北欧メタルバンドの話で盛り上がり、ひと時バンドをクビになった憂鬱は晴れるものの、会話が終わってしまえば、また涼夜は鬱積した思いに悩まされるのだった。
高校卒業までにはギタリストとしてメジャーデビューし、大学には進まずアメリカへ渡る──そんな人生設計が善治郎のひと言で、全て崩れ去ったのだ。
バイト代が入り、楽しい気持ちで訪れたはずの楽器店で、暗い想いに沈み、遣り場の無い思いが涙になって込み上げて来ると、涼夜は思わず俯向いてしまった。そんなタイミングに突然名前を呼ばれながら肩を叩かれ、驚いて後ろを振り返ると、
「やっぱり、『すず』だ! こんな所で会うなんて、初めてだな?」
人懐っこい笑顔で、クラスメイトの北条 将斗が立っていた。
愛称で呼ばれた涼夜は、何時もと変わらない明るい将斗の笑顔に癒されたが、どうにも恥ずかしい処を目撃されてしまって思え、将斗の笑顔から視線を逃がすと、彼が背負っているスティックケースが目に入った。
「あれ? マサってドラムやるんだ?」
涼夜も愛称で呼んだ将斗が、吹奏楽部に在籍し、トランペットの腕前が評判なのは知っていたが、ドラムもやっているとは知らなかった。
「そうだよ。結構前から趣味でね! すずはバンドやってるんだよね? ね、バンドってやっぱ楽しい?」
そんな会話が切っ掛けで音楽談義を展開し、付近のカフェへ落ち着いた二人は、時間が経つのも忘れて話し込み、夕飯の時間だと慌てて将斗が席を立つまで会話の途切れることも無く、週末練習スタジオで、軽く音合わせでもしようとの約束を交わしこの日は互いに家路に着いた。
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