《2》

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 つまり、浮気し放題でも咎められないということか。考えてみればそうかも知れない。恋人に浮気されても、自分も誰とだって恋愛できるなら目くじらを立てる必要がない。やりたいことが何でもできてしまうなら、一つの恋に執着する理由もない。そう思うと、確かに幸せだけど、本当の幸せって何も分からないんじゃないかと思えてくる。 「でもね、勝界に住む者は、みんな一つだけ不安を持っているんだ。これについては少し後で話そう。次は負界についての説明を聞いてほしい」  少し興味が湧いてきたので、私は気持ち前向きに話を聞いた。勝界が天国なら、負界はその逆だろう。目の前の彼女は負界の住人だと言う。人の不幸話は、他人事であればこそ面白い。友達の恋バナも、ラブラブ話より失恋話の方が楽しい。私は性格が悪いのかな。 「負界は、言うなれば地獄だ。誰一人として勝つことはない。たとえば、みゆきの好きな野球で説明すると、試合は全て引き分けになる。誰かがヒーローインタビューを受けることもない。ピッチャーが球を投げれば打たれるし、バッターが球を打てば好守に阻まれる。全員が最優秀選手であるとも言えるけど、バッターは必ず打率ゼロ割、ピッチャーは防御率ゼロの代わりに、毎回必ず途中で故障して長期離脱を余儀なくされる。どのスポーツも稼げない。芸術は決して認められない。いくら勉強しても、試験では絶対に失敗するし、夢を持っても100パーセント叶わない。相思相愛になることは許されなくて、全員が永遠の片想い。負界に住む全ての人が不治の病を患っているし、何を頑張っても実らないから全員が全てを諦めてる。精神からして負け組なんだ。それでも頑張って誰かに勝とうとすると、均衡警察という組織に逮捕される。毎月何かが増税されて、収入の十倍以上の税金を納めなくてはならない。だから全員が借金まみれで、何度自己破産したところでわずか一ヶ月で借金生活に戻る。何の希望もない、最悪の場所だ」  思っていた以上にひどくて恐ろしくなった。精神からして負け組なんて、そこに誘導する悪い奴らがいるんだろう。でも、そうしたら政府はどうなのかな。そんなに増税しているなら、権力者は勝ち組なんじゃないの? 「きみの思っていることは分かるよ。権力者は勝ち組じゃないかと考えただろう。でも、残念ながら答えはノーだ。政府が増税しなければならないのは、勝界にお金を貢ぐため。負界に権力者は存在しない。国会議員は日直みたいなもので、国民が役割を回す。だって選挙したって勝てないからね。どんなにご立派な主義主張があっても、投票率は0パーセントでなければならないという法律がある。だから選挙そのものが有名無実化していて、いざ立候補するときには供託金だけを取られて終わり。誰が立候補したいと思うかな。たまに有名になってやろうと立候補する人がいるけど、その人は均衡警察に逮捕されて終身刑となる。まあ、死刑にできない理由があるから、それが最高の刑なわけなんだけど」
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