《1》

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 学校からの帰り道、何だか知らず、私は失恋歌を口ずさんでいた。  今日の放課後、(とも)()くんに(こく)った。心のどこかで振られるはずはないと決めつけながら……。  彼とは休み時間にずっと話す仲だったし、お昼だって一緒に食べてた。周りからは公認カップルと見られて、休日のデートだって何回もしていた。  告白は通過儀礼みたいなもので、そこに不安は少しもなかった。 『て言うか、付き合ってるもんだと思ってたよ』ぐらい言ってくれると期待していた。  それなのに告ってみると、彼は目をまん丸くして、 「俺、男女の友情はあると思ってた。そういうことされると俺が否定されてるみたいだ」  なんて言った。どうやら彼の中で、私はもっとも仲が良い女友達だったらしい。彼は男子と馴染めず、女子といる方が楽だったそうだ。そして私と過ごす時間が一番自分らしくいられた。恋愛感情はまるでないけど、居心地の良さだけは満点だったと言った。  言葉の一つ一つを分解していくと、納得できる部分は多くあった。彼はアニメやゲームよりもファッションに興味があり、女性アイドルよりも男性アイドルに詳しい。下ネタは苦手で、言葉遣いもきれいだ。だからと言って性自認はちゃんと男子だし、女子になりたいタイプの人じゃない。理想の女の子についても語ったことがあるし、一般的な男子の枠組みにはちゃんと入る人だった。  でも、告白後、やたらと「男女の友情」という言葉を使った。これが優しさからくるものなのか、本心なのか、逃げているのかはよく分からなかった。  はっきりしているのは、私が振られたらしいこと。さらに、智哉くんの望みを叶えようとすれば、今後も親友として今までと変わらず傍にいなきゃいけないということ。ここに見返りを求めてはいけない。何故なら親友だから。「親友に見返りを求めるのはおかしいだろ?」という言葉は、確かに間違っていない。でも、私の気持ちを考えると、なんとなくそれこそがおかしな話じゃないかと思うわけで。 「俺、みゆきとは男女を超えた関係になれたと思ってる。この告白は間違いだ。勘違いさせちゃったんだったら、ホントごめんな」  恋は勘違いが引き起こすものという説もある。だから短期間で別れるカップルもいるのだ。やはり彼は間違っていない。でも、なんか納得しづらいモヤモヤが残っている。
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