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プロローグ
『世界』とは、無限に広がる宇宙の、星のきらめきのように数多と存在している。
その世界のうちの一つに、1頭のドラゴンがいた。
そのドラゴンは黒き鱗を鳴らし、死を呼ぶ咆哮で世界の半分を滅ぼした。そして滅ぼした世界の半分を己の領地とし、あらゆる種族、果ては死霊をも従えて世界のすべて…世界を創造した神たちすらも滅ぼさんと戦った。
神々は自らの身を守るため、苦肉の策ではあったが、人族に神の力の一部を与え、ドラゴンに立ち向かわせた。この人族たちは『勇者』と呼ばれるようになり、共に黒き竜に立ち向かわんとする者たちを束ね、世界の存続をかけ奮起した。
結果として、ドラゴンは勇者に討ち取られた。
討ち取られたドラゴンは、不思議なほど怒りも憎しみも感じていなかった。ただただ感覚のすべてが冷たく、暗くなっていくのを静かに感じ取っていた。
なるほど、これが「死」か。存外、悪くないものだ。
刻々と近づく死の淵で、ドラゴンは不思議なものを見た。己の身体は深き海に沈むように、黒く冷たいものに包まれていき、そして身体からは無数の泡が溢れてくるのだ。その一つ一つに、懐かしき光景が映るのである。
これが、走馬灯であるか。
重い腕を伸ばし触れようとすれば、触れるより先にむざむざと散っていく記憶たち。凄惨たる光景の中で、たった一つの、温かな光を見つけた。
ドラゴンは思い出した。
それはまだドラゴンの幼きころ、気の遠くなるような過去の記憶。格上の魔物と戦い衰弱した自分を、かいがいしく介抱してくれた一人の少女。その少女が作ってくれた『粥』という食べ物。どんな味だったかはもう思い出せない。ただ温かく、身体と心を癒してくれた。その記憶だけが残っている。
ドラゴンは腕を伸ばそうとした。だが、もはや腕と呼べるものはそこになかった。声も出なかった。顔も半分以上なくなっていた。何もできず、己から遠ざかる泡をただ見つめるしかなかった。
やがて、目と呼べるものも消え失せ、ドラゴンは「無」となり果てようとしていた。
ドラゴンは思った。
あぁ…次があるのならば…次があるのならば…
「ただの人の児となり、温かい食事がしてみたい。」
これは贅沢過ぎる望みであろうか。
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