プロローグ

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 黒き竜が死んだ世界とはかけ離れた世界。  ここは現代。深夜をとっくに過ぎた時刻だというのに、会社の机とパソコンに張り付きひたすらキーボードを打つ青年が一人いる。  青年は、いわゆるブラック企業の社畜だった。入社時に5人いた同僚はみな1年足らずで辞めて行き、青年だけが残ってしまった。  食事をおろそかにしてしまうほどの業務内容に忙殺される毎日。ここ数年は冷えた食事しか食べていない。外食をする気力もない。そんな時間があれば少しでも仮眠がとりたい。通販で大量購入したバランス栄養食品とエナジードリンクを傍らに置き、ただひたすらにキーボードを鳴らす。  青年はなぜ転職しないのか。「しない」と「できない」では全く意味が異なる。この会社への就職は青年にとって不本意であった。親族の意向が大きかった。そしてこのざまである。  社畜はいつも思っていた。こんな会社をとっとと辞めて、夢だった自分の飯屋を開きたい。だが実際は、それを実行するための気力すら奪われていた。  その日は突然やってきた。誰もいない職場で、床にうずくまる社畜。  心臓発作だ。エナジードリンクの飲みすぎがよくなかったのかもしれない。人の都合でさんざんこき使われ、挙句最期は苦しみながら息絶える。なんてつまらない人生だろう。  社畜は走馬灯の中でも働いていた。だがそれは楽しくきらめく記憶。学生時代の飲食のアルバイトだ。料理をして、その飯をうまそうに食う客。幸せだったあの頃は、もう戻ることはない。  もし、次の人生があるのならば。…もし次があるのならば!  誰にも縛られずに、気ままに料理をして生きていたい。
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