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炎路自身も、バッタをつかみ食いするのが異常だとはおもっていた。だがそれは日本にいればの話。日本人として現代社会に生きていればの話であって、ここはおそらくそうではない。アデルと会話をしていくたびに、自分が知らない世界にやってきたのだと実感していく。ならば、「日本人」として生きる必要はなく、自由に、ただの一人として生きてゆけばいい。そう思えばこその行動だ。
炎路の学生バイト時代。InseQueenという昆虫食ショップで虫食マニアの店長にひたすら試食をさせられた経験が生きている。スナック系から、半生、挙句のはてに生きたままを食わされたりもした。それで炎路の観念はぶっとんでしまい、虫もれっきとした食料なのだ。
「無理にとは言わんが、お前も食えるもんは食ったほうがいいぞ?若干日も傾いてきたし。」
「ぬぅ…気は進まぬが、おぬしが平然と食っているところを見ると、なぜか負けたきがするしのぅ…。」
「生が抵抗あるなら、火を通せればいいんだが…この世界、魔法とかあんのか?」
「魔法か?もちろんあるぞ。…じゃが使おうにもこの体、衰弱しておるのかほぼ魔力が空っぽなのじゃ。じゃから何か…くって…栄養をじゃな…」
加熱して食うためにはまず生食を、か。本末転倒だな。しかしそれならばと炎路はおもった。
「俺は魔法とか使えるのか?バッタくったから魔力?も蓄えられてたりして。…自分の状態を確認できないからどうすればいいのかわからんが。」
「ふむ、それなんじゃが。」
アデルは一息おいて説明した。
「まず、わしには鑑定スキルがある。便利なものでな、万物が如何なるものかを明確に認識できるのじゃ。例えば、おぬしが先ほどから食べておるバッタは『グラスフラッパーという魔物の眷属であり、作物を荒らす害虫』じゃと認識できる。ほかにもいま歩いている草むらの草の種類、土の上を這うておる小さい虫も、名前と特性を理解できるのじゃよ。…しかし、主をいくら鑑定しても、名前と妙なスキル名しか表記されんのじゃ。」
本来ならばレベルや使用可能な上級スキル、経験値などもわかるはずじゃが、と付け加えた。
「変なスキル名?どんなだ?」
「きっちんつーる?というスキル名でな。特性が何なのかさっぱりじゃ。」
「キッチンツール⁉何その素敵スキル。俺のためにあるようなスキルじゃん。どうやって使うんだ?」
「ゆうたじゃろ、特性がわからぬと。使い方がわからぬものの使い方を説明せいとゆうのか?」
炎路は考えた。キッチンツール、つまり調理器具。ならばそれを使っているところを想像できればいいのではないかと。
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