対決

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「お姫様抱っことおんぶ、どっちがいい?」  オフィスに着き、車から降りる時にそう訊ねられた。 <裸足でも大丈夫>なんて言っても<絶対ダメ>って言われるよね。  抱っことおんぶ、どっちも恥ずかしいけど……。 「おんぶ」  一言返事をする。  迅くんはフッと笑い、背中をかしてくれた。彼の背中に掴まる  あっ、子どもの頃も迅くんにおんぶしてもらったことがあるような気がする。 「ねぇ。昔も私が転んだ時におんぶしてくれたよね?」 「よくそんなこと覚えてるな」    やっぱりそうだ。  彼は昔から私を守ってくれた。  今日だって、迅くんがいなかったら私は……。    ギュッと彼の肩にしがみついてしまった。 「もう大丈夫だよ」  迅くんがそう言ってくれた。    また戻って来ちゃった。  さっきまでここのソファーに座っていたのに。  ソファーに座らせてもらい、タオルで足を拭き、消毒をした。  迅くんがほとんどやってくれたから<消毒してもらった>が正解かもしれないけど。 「迅くん、カメラで見てたの?孝介の様子」    あの窮地にタイミングよく電話をかけてくれたってことは、リアルタイムで見てたってこと?気になっていたことを素直に彼に聞いた。 「まぁ……な」  あっれ?  歯切れが悪い返事。 「加賀宮さん、美月さんには話しておくべきです。九条孝介が取り乱した理由。美月さんがここに避難して来ている時点で、もう帰宅できる状態ではありません。あの人に何をされるかわかりませんよ。証拠は揃ったんです。結局は、あの家政婦の証言も利用しなきゃいけないんですから」  亜蘭さんは知ってるんだ。 「あー。わかったよ。二人になりたいから、亜蘭、美月の靴買ってきて?」  えっ。どうしよ。  手持ちのお金、いくらあったっけ?  お財布の中を確認しようとすると 「金は要らない」  迅くんに止められる。 「わかりました」  亜蘭さんはオフィスから出ていき、迅くんと二人きりになった。 「こんなに話が進むと思わなくて、予定が狂った」 「どういうこと?」  しばらくの沈黙。  私に言いにくいこと? 「不倫の確実な証拠を集めるために、美和(あの女)に近づいた」 「えっ?」  あの女って、美和さんのこと? 「別宅として借りているマンションの家政婦に一時的になってもらった。それで、気のあるような素振りをした。食事に誘ったりして、信頼させた。孝介(あいつ)との関係については、全部吐かせた。もちろん録音済み。あの女、簡単に落ちたよ。俺に」  頭で整理する。  それはつまり、ハニートラップってこと?
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