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選んでもらった洋服を着て、フィッティングルームのカーテンを開ける。
「お客様、とてもお似合いです!スタイルが良いので、何でも似合っちゃいますね!」
この店員さん、まだ接客経験が浅いのかな。
褒め言葉が嘘っぽいし、誰にでも言ってそうな言葉でなんだか信用ができない。
あ、こんなこと思っちゃダメか。せっかく褒めてくれたのに。
モヤモヤしながら迅くんを見ると、表情があまり良くなかった。
この洋服、似合わなかったかな?
「ダメ。スカートが短すぎる」
「えっ?」
膝より少し短めのスカートだった。
このくらいじゃ、ショート丈とは言えないし。そんなに短いかな。
「却下。次」
「そうですか?とてもよくお似合いなのに」
もちろん店員さんはそんな感想を伝えるだろう。
「嫌なんです。僕、嫉妬の塊みたいな人間なんで。そのスカート丈くらいだと、エスカレーターとか心配で」
そんな理由だったんだ。
「そうなんですかっ!彼女さんが羨ましいです!こんなイケメンな彼氏さんにそんなこと言ってもらえるなんて」
私より迅くんと話してた方が楽しそうだな。
迅くんがこの洋服がダメな理由がわかって良かった。
その時――。
「ごめん。美月。俺の電話鳴ってる。ちょっと出てくるから、次の洋服に着替えといて?」
「えっ。あ、うん」
着信相手を確認した迅くんは、早足にどこかに行ってしまった。
仕事の連絡だろうか。社長だもんね、大変だ。
「羨ましいです、あんな彼氏さん。どこで知り合ったんですか?」
迅くんが居なくなった途端に店員さんのフレンドリーさが増した。
彼氏、か。
そう言えば、迅くんのこと彼氏って言っていいのかな。
…・――――…・―――
「どうした?亜蘭。美月と一緒に居るってわかってて電話なんて。急用か?」
電話をかけてきたのは亜蘭だった。
こんな時にかけてくるなんて、亜蘭らしくない。
<すみません。せっかくの美月さんとの時間なのに。一応、伝えておいた方が良いかなと思いまして>
「いや。大丈夫。何かあったのか?」
<実は……>
亜蘭の話の内容を聞き、思考を巡らせる。
「そっか……。わかった。気をつける。連絡、ありがとう」
興信所の調査、続けていて良かった。最悪のことを考えなきゃな。
美月に話しておくか?
いや、余計な心配をさせたくない。
が、どうする?もしもあいつが接触してきたら。
恨まれているとすれば、もちろん俺の方だと思うけど。
明日、河野さんに九条グループの内情聞いてみるか。
あの人がいてくれたから、九条孝介の横領の証拠とか掴めたし。
せっかくの美月との時間なのに。
いつまで邪魔するんだよ、あいつ。
…・――――…・―――
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