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「迅くん!そろそろ起きて」
「んっ……。うん。あー。俺、何時間くらい寝てた?」
彼が部屋の中の時計を見た。
「っ!マジッ!?七時すぎてんじゃん。ごめん」
時間を知った瞬間、上半身をバッと勢いよく起こした。
「ぐっすり気持ちよさそうに寝てたから、そのままにしてた。休みなんだもん、たまにはゆっくりしても良いと思うよ」
「美月と一緒に過ごせる時間なのに。なんか損した気分」
口をへの字に曲げ、ムスッとした表情を浮かべる彼はなんだか子どもみたい。
夕ご飯、喜んでくれるかな。
ちょっとだけ不安を感じながら、小さなテーブルに作った物を並べていく。
「すごいな。マジ感動」
迅くんはすでに<いただきます>を準備しているかのように手を合わせている。
「本当にこんなので良かった?」
「あぁ。理想」
二人で
「いただきます」
そう声を揃える。
彼が一口、お味噌汁を飲んだ。
口に合うかな?
ドキドキしながら彼の顔色を伺う。
一旦、箸を置く彼。
えっ?どっちなんだろう?
「ヤバい、美味い」
良かった。少し息を吐いてしまった。
「良かった」
「これから毎日美月の料理が食べられるかと思うと、普通に嬉しい。あっ、言ってなかったけど、ハウスクリーニング終わったから、明日もう引っ越しだからね」
もうっ?また急な話だ。
「もう終わったの?明日引っ越しって!聞いてないよ」
「ごめん。忘れてた。でも、イヤなの?」
先ほどまでとは違う彼の鋭い眼光がイヤなんて言わせてはくれない。
「イヤじゃないよ。心の準備ができてなかっただけ。いつまでもホテルってわけにはいかないし。ごめん。感謝しなきゃいけないのに」
「毎日、朝美月が起こしてくれて、夕ご飯も作ってくれて、夜は隣に居てくれるなんて。夢のようだな」
はい?待て待て待て。
夕ご飯は作るって言ったけど、朝と夜のことは聞いていない。
それじゃあ、同棲しているようなものじゃない!?
「ねっ!迅くん、そんなこと言ったっ……」
「あー。美月のご飯、美味いなー」
全然聞く耳を持たない。
はぁ……。
ここで反抗しても、また言い包められるだけだよね。
彼と一緒に居たいって思ってしまった時から、こうなるって理解しておかなきゃいけなかったかも。
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