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もう遅番が出勤してくる時間なんだ。
お客さんも少ないし、今なら軽く挨拶をしても大丈夫だよね。
「お疲れ様です。お久しぶりです。今日からまたよろしくお願いします!」
ペコっと頭を下げる。
藤原さんは
「お疲れ様です。今日からまたお願いしますね!」
初めて会った時と同じような笑顔を向けてくれた。
良かった。普通に話してくれて。
再度頭を下げ、キッチンに戻ろうとした時だった。
「あっ、この間、旦那さんが来ましたよ。あぁ、今は元旦那か。話があるとか言って。しばらく出勤しない予定ですって伝えたら、また来ますって言ってましたけど」
う……そ。
本当?本当に孝介が!?どうして?
「別れたんですよね?他のお客さんの迷惑にもなるし、スタッフの足も止めちゃうので、夫婦間の問題を持ち込むのはやめてもらえませんか?迷惑です。ここでまた働きたいのなら尚更」
「すみません」
孝介、何か私に用があるんなら直接連絡して来ても良いのに。
一応、まだ連絡先は変えてない。
藤原さん、怒ってる?
いや、それはベガまで来た孝介の対応が大変だったから?
だったら申し訳ないけど。
あとで平野さんにも謝っておこう。
なんだかんだで一日が終わった。
午後、お客様が少なくなった時間、キッチンを使わせてもらった。
これで実演してみて、スタッフさんに食べてもらって、いろんな意見を集めて、またやり直し……。その繰り返しになる。
でも前みたいに<お客様>扱いじゃなく、フロアーとかキッチンを手伝えるようになって良かった。
帰る支度を整え、一言、平野さんにも謝りたくて彼を待っていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です、あれ、九条さん……。失礼しました。遠坂さん、まだ残ってたんですか?」
遠坂、そうか。
私離婚したから旧姓に戻ったんだよね。
私自身も忘れていた。
「はい。あの、平野さん。この間、私の元夫がベガに来たって藤原さんから聞きました。いろいろご迷惑をかけてすみませんでした」
平野さんはピタッと一瞬動きが止まったかのように見えた。
「いえ。全然です。しばらくお休みですって伝えたら、わかりましたってすぐに帰られましたよ。そんな、迷惑だなんて。謝らないで下さい」
「そうでしたか。スタッフさん、対応に追われたんじゃないかと思って……」
藤原さんの言い方だったら、いつもの孝介みたいに何か騒ぎ立てて酷い態度でも取ったのかと思った。
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