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「大丈夫です。前の旦那さんのことは、気になさらないでください」
「ありがとうございます。では、失礼します」
平野さんのことを信じよう。
って言っても、ベガまで来るなんて。
孝介、何がしたかったんだろう。迅くんに一応伝えておこう。
スタッフルームから建物の裏道に出て、帰宅をしようと駅方面へ向かおうとした時だった。目の前を見ると――。
「孝介……」
まだ別れてからそんなに経っていないのに。
最後に見た時の孝介とはかなり違う。
痩せていて、眼に生気がない。シワだらけのスーツ。
嫌だ、声をかけたくない。
いっその事、振り返って逃げてしまいたい。
「美月、会いたかったよ」
えっ。ウソでしょ。
何を言っているの。
「どうしたの?こんなところで」
平然を装うも呼吸が不規則になりそうなほど、身体が彼を拒絶していた。
「やり直そう」
彼の言葉を疑った。
「嘘。どうして?あなたは美和さんのことが好きだったじゃない。なのに……」
「美和とは別れたんだ!!」
彼が急に怒鳴ったため、その声に驚き、ビクっと肩が動いた。
近くを歩いていた人も振り返って彼を見ている。
「やっぱり、美和じゃなくて美月が居なきゃ俺はダメだ。文句一つ言わず、俺に従ってくれた。お前が俺をこんなにも愛してくれていたのに、その愛情に甘えてしまって。俺も悪いところがあった。やり直そう。二人で」
怖い。
さっきはいきなり怒鳴ったのに。
今は落ち着いて話しているように見える。
けど、私の返事次第で激高しそう。
「ごめんなさい。あなたとやり直すつもりはありません。だからもうここにも来ないでほしいの」
はっきり言わないとまたここに来るかもしれない。
そしたらベガのスタッフさんに迷惑かけちゃう。
私はやり直すつもりなんてない。
「どうしてだ!お前も美和みたいに好きな男ができたとか言うんじゃないだろうな!!」
再度彼が声を大きくした時――。
「やめて下さい。騒いでる人がいるって警察を呼びますよ?」
聞き覚えのある声――!
「亜蘭さん!?」
彼は私を庇うように前に立ってくれた。
「あんたは、加賀宮の秘書……か?」
急な亜蘭さんの登場に孝介も一瞬たじろいだ。
「そうです。美月さんはあなたとやり直すつもりはありません。しかもうちの店の近くでそんな大声出して迷惑です。ベガ来るのもやめてください。通報しますよ?」
亜蘭さんは無表情のまま淡々と言い切った。
「クソっ!お前ら、本当に覚えておけよ」
警察、通報という言葉に反応したのか、孝介は足早にその場を去った。
「美月さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ありがとうございます!」
どうしてこんなタイミングで亜蘭さんが?
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