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その一カ月後――。
「迅くん、朝だよ!起きて!?」
「う……ん。もうちょっと寝たい……」
彼は枕に顔を埋めた。
「ダメダメ!遅刻するよ!」
私は変わらず迅くんと半同棲生活を続けていた。
不安視していたことも何も起こらず、平和な日々を送っている。
孝介はもう地方で働いていると聞いた。私と住んでいたマンションも引っ越したそうだ。
「今は真面目に働いているって九条社長が言っていたけど。とりあえず、他の社員もいる手前、しばらくはこっちには戻って来させないって言ってた」
迅くんがそう教えてくれた。
孝介が何かしてくるとか、考えすぎだったのかな。ベガにもあれから行っていないみたいだし。
とりあえず、本当にこれで孝介と離れることができて良かった。
相変わらず迅くんは仕事が忙しくて、一緒にいる時間も短いけれど、それでも彼が「ただいま」と変わらず帰って来てくれるだけで嬉しい。
夜の彼は激しすぎるところもあるけど、それも彼の愛情表現だと最近は思うようにしていた。そんなある日――。
「美月、やっぱり一緒に住むところ探そう?」
仕事から帰ってきた彼にそう言われた。
「えっ?」
ベガに出勤できない私は、平日の昼間は近くの高齢者施設でボランティアをしていた。
家の掃除やご飯を作ることは楽しいけど、何か人のためになることをしたかった。
それを彼も応援してくれた。私がこうして自由でいられるのも全て迅くんのおかげ。
「どうして?急に」
今は迅くんが所有している木造アパートで一人一部屋ずつ使い生活している。
まぁ、隣の部屋だしほとんど夜は一緒だけど……。
このアパートにこだわっているのは、子どもの頃の経験が関係しているって前に教えてくれた。
私が離婚して、一緒に暮らせるようになったらこのアパートには未練はないって言っていたけれど。
「やっぱり、常に美月と一緒にいたい」
「部屋は別だけど、ほとんど一緒だよ?」
彼は仕事が忙しくて出張などがあると帰ってこない時もある。
企業のイベントに呼ばれる時もあるし、その時はホテルに泊まることも多い。
このアパートに帰ってくる時は、一緒に過ごすことが多いのに。
うーん、一緒の部屋ではないけど、お隣さんですぐ行ける感じだし……。
「俺と居ることがそんなにイヤなの?」
どうしてそんなに極端なの。
「嫌じゃないよ。今の生活は迅くんが居てくれるからだし」
「じゃあ、いいじゃん。もっと広い部屋に引っ越して、普通に同棲したい」
普通に同棲……か。
確かに普通の同棲とは言えないよね。
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