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「美月さんに<大好き、愛している>って言われたいんなら、まず自分が行動しないと……。相手からの愛情を求めてばかりいてはダメですよ」
真っ当なことを言われ、何も言い返せなかった。
「<迅くんの隣に居ても自信が持てるような女性になるまではダメ>って言われたらヘコむ」
過去に美月にそんなことを言われた。
俺は美月が居てくれれば何も要らないのに。
「プロポーズ、フラれるのが怖いんですか?仕事は完璧なのに。本当、プライベートは普通の人なんですね」
仕事だって普通の人間だけどな。
「俺が知っている加賀宮さんは、弱音なんて吐くような人じゃなかったから、なんだか新鮮で面白いですけどね。高校の時に、あんな人数相手にケンカ吹っ掛けてた人だとは思えませんよ」
アハハっと亜蘭は昔を思い出したかのように笑った。
「そんなこともあったよな。あの時の俺は、今の俺なんて想像してなかっただろうな」
誰かに愛されたいなんて感情はなかったし。
「九条孝介が居なくなってからしばらく経ちましたし、告白してみたらどうですか?」
孝介が東京から離れて、接近してくる可能性もほとんどなさそうだし。
「あぁ。考える。美月が断らないような告白を」
「どうしてそんなに強引なんですか。嫌われますよ」
ふぅと亜蘭が息を吐いたのがわかった。
…・――――…・―――
今日は急に迅くんの希望で、二人で住むところの内見に行くことになった。
彼が午後からお休み。
仕事が終わってからそのまま知り合いの不動産会社に行きたいということで、私は会社近くのカフェで時間を潰していた。
迅くんから<もうすぐ帰る>という連絡が来たため、会社のエントランスに移動しようと思い、カフェの席を立つ。
間取りとかそういうこと全然相談してないけど、大丈夫なのかな。
迅くんってどんな部屋に住みたいんだろ。
そんなことを考えていた時だった。
「お待たせ」
迅くんの声がした。
振り返ると彼がいた。
もう社長モードはやめているのか、メガネはしていないし、ネクタイも外している。
「あっ。迅くん。お疲れ様」
「会社の駐車場に車を停めているから、行こうか?」
「うん」
案内され、歩いていた時だった。
彼の動きが止まった。
「どうしたの?」
不思議に思い、顔を覗き込む。
とても冷たく、何かを睨みつけている。
その方向を見ると――。
「えっ……。なんで……?」
私も驚きの余り、動けなくなってしまった。
「どうして孝介がここにいるの?」
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