それぞれの行方

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「加賀宮さん!」  亜蘭さんの声が大きくなった。  のが見えて、そして――。  腹部にナイフが刺さって? 「ッ……!」  彼は自分に刺さっているナイフを腹部から。  フラッとよろける彼を亜蘭さんが支え、ゆっくりとアスファルトの上に寝かせた。 「迅くん!迅くん!!」  ワイシャツから薄っすら血が滲んでいた。 「ねっ!!やだよ!!迅くん!」  彼は私の方を向き 「美月。大好きだよ」  そう伝えてくれた。 「俺が……。死んだら……。たくさん泣いてくれる?」  彼は私に手を伸ばした。  その手をギュッと握る。 「やだ!!死ぬなんて絶対やだ!!どこにも行かないって昨日、約束してくれたじゃん!!」  彼がいなくなるなんて考えられない。涙が溢れて視界が霞む。 「もし……。生きることができたら、美月と……。結婚したかった」 「そんなこと言わないでよ!結婚でもから!!だからお願い……!」  彼を失いたくない。迅くんが生きてくれるなら、何でもするから……。 「美月さん……」  亜蘭さんが私の名前を呼んだ。 「俺のこと、愛してる?」 「愛してるよ……。誰よりも……。迅くんが居ない世界なんて生きてても意味がないもん……」  呼吸が上手くできない。 「本当?」 「本当だよ!愛してる……から。いなくならないで……」  涙を拭う。 「生きてたら、毎日行ってらっしゃいのキスしてくれる?」 「なんでもするよっ!!だから……」  あっれ……。なんかおかしい。 「約束な?」 「えっ?」  目を擦り、涙を一生懸命拭い、彼と目を合わせた。  彼の顔を見ると、薄っすら笑っているような……。  確かにワイシャツに血が付いてる。  だけどよく見ると、あまり出血量が増えていない気がする。  これは――。 「加賀宮さん。もういい加減、やめてください。ほんとーに美月さんに嫌われますよ」  亜蘭さんが全然心配してない。 「どういうこと?」  私が状況を理解できないでいると――。 「はぁ。痛いのは本当なんだから少しくらい労われよな。亜蘭」  そう言って彼は上半身を起こした。 「迅くん、大丈夫なの?」 「大丈夫。俺があんなやつにヤられるはずない。あいつが俺を刺そうとした時、わざとちょっとだけ刺された。ナイフ掴んで止めたから、手も切れてる。けど、死ぬようなケガじゃない」 「念のため、ハンカチ、手に巻いといてください」  亜蘭さんが切れている迅くんの手をハンカチで止血した。 「あー。さっきの美月、可愛かったな」  そんな呑気なことまで言っている。  私は空いた口が塞がらない。    でも――。 「良かったぁ……」  安心したからかまた涙が出てきた。  その時、パトカーの音と救急車の音が聞こえた。
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