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次の日の夜、迅くんに連れてきてもらった場所は――。
「ここって……。小さい頃、迅くんと初めて会った公園!」
車から降り、誰もいない公園を二人で歩く。
遊具は随分と変わってしまい、迅くんと一緒に会話をしたあのトンネルもなかった。
「懐かしいな。小さい頃の迅くんと過ごした記憶がなくなってたこと、本当に後悔してる」
この公園で出会って、二人で遊びながら過ごして、成長して……。
あのまま彼とずっと一緒に過ごしていたらどうなっていたんだろう。
私の初恋の人は迅くんだったし、迅くんもあの時の私のことを好きだと言ってくれた。
大人になってもその関係は続いていたんだろうか。
もし彼の近くにあのまま居ることができたら、少しでも彼を助けてあげられたかもしれない。
「美月が悪いわけじゃない。後悔なんてしなくていい。今、こうやって一緒に居られることが大切だろ?」
彼が手を繋いでくれた。
<今一緒に居られることが幸せ>
過去には戻れない。
けれど、前向きな彼の考え方に救われる。
「そうだね」
空を見上げると星が見えた。
「昔、よくここで星を見てた。流れ星なんて滅多に見ることができなかったけど。俺が引っ越すことになって、この場所から離れる最後の日も、また美月に会えますようにって願ってた」
そんなことを想ってくれてたんだ。
彼も空を眺めている。その横顔はとても優しくて綺麗だった。
「俺の願い、叶ったよ。美月と再び出逢うことができて、初めて逢ったこの場所にまた二人で来ることができた」
真っすぐで素直な彼の言葉がとても嬉しい。
「美月、これからは俺とずっと一緒に居てくれる?」
もちろん、私の答えは――。
「うん!ずっと一緒だよ。もう迅くんから離れない」
この前、孝介の事件の時――。
彼が居なくなってしまうかもしれないと思った時、大袈裟かもしれないけれど、彼が居なかったらもう生きていく意味なんてないとそう思ってしまった。
失うのがすごく怖かった。
彼は私の返事を聞き、フッと笑った。
そして――。
「結婚しよう」
そう言ってくれた。
「はい」
私の答えは迷いもなく一つしかなかった。
…・――――…・―――
「プロポーズ、成功して良かったですね」
取引先へと移動中の車の中、亜蘭は運転しながらも俺の話を聞いてくれた。
「それにしても九条孝介に刺された時、あんな芝居までして<結婚でも何でもするから>って美月さんの気持ちを確かめるようなことまでして……。本当に性格歪んでますね?」
最近、亜蘭が毒舌になってきたような気がする。
彼の言葉に何も返事ができなかった。
「幸せになってくださいね?美月さんをあまり泣かせてはダメですよ」
「母親みたいなこと言うんだな」
相棒であり、家族のような存在の亜蘭に幸せになってくださいと言われ、正直ホッとした。
なんだかんだでいつも迷惑かけているし、仕事もプライベートも。
九条孝介から襲われた時、偶然にも亜蘭が近くに居てくれて助かった。
警察や救急への通報、その後の処理の早さに<俺が社長じゃなくてもいい>そんなことまで感じてしまった。
「あぁ。俺も美月さんのような可愛いお嫁さんが欲しいなー」
「美月は絶対に渡さないから」
亜蘭の言葉に過剰に反応してしまう。
「本当に加賀宮さんって、仕事以外は子どもみたいですね」
彼がそう言って笑った。
…・――――…・―――
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