心頭を滅却しても煩悩は消えぬ

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心頭を滅却しても煩悩は消えぬ

害虫の最低な欲望塗れの返事は、寧々ちゃんがサークルを去る事態となった。 当然だろう。 告白して、心は要らないけど身体は利用します、というゲスさ満載の返事をした先輩がいるサークルになど行く気が失せる。 「なんで辞めちゃったのかな」 「完全にあんたのせいでしょ」 「あー、断ったから気まずいのか」 害虫が寝ぼけたことを言っている。 虫だけに無視でいいか。 と言っても害虫だから人の気持ちを察することなく、私にベッタリ乗り掛かってくる。  重い。ウザい。 「これで俺の本気が分かってくれたよね」 「脳と下半身が一致してないの?」 「してるよ。だってこうしてお前に触れたらすぐに勃つ…つ、ツンデレなとこも愛してるよ」 「捻り出した努力は買うけど愛は要らん」 それにツンデレって何。私がいつデレた。 「またまたぁ。寧々ちゃんの気持ちを断れって顔してたくせに」 「眼科に行って来い」 「残念でした。両目とも視力はいいんだよ」 「上手く機能してないみたいだけど?」 目も頭も耳もどこもかしこも。 眼科だけじゃなく精密検査を勧めてあげる。 「なぁ、もう許してくれない? これからは願望を口にしないしアピールもしない。お前だけだ。分かってくれよ」 「じゃああんたも分かってよ。一度失墜した信用は完全に回復することはないの」 「もう俺のことが嫌いになった? 会話もしたくない? 「嫌い。ウザい」 「嘘つき。お前はウザいって言葉で逃げてるだけだ。どうウザいかちゃんと言えよ」 なぜ、私が問い詰められるのだろう。 悪いのはあんたであって私じゃない。 こちらを責めるような言い方に胸の奥が静かに燃え上がる。 酒はないがガチギレしそうな気配だ。 「いい加減にしてよ。全部がウザい。存在がウザい。今の言葉もすっごくウザい!!」 「うん。それから?」 「そういう態度もウザい」 「分かった」 「欲望丸出しのゲスでクズなとこも本気でウザい」 「気をつける」 「口では言うけど流されまくって転がりそうなところもウザい」 「お前が止めてくれ」 「人任せか!」. こちらの言い分を受け止めるつもりじゃなかったの?! だから聞いてきたんじゃないの?! 本当に何なんだこいつは。 真剣に答えると最後は脱力感でいっぱいになる。あー、ウザいウザいウザい。 「だってお前が言ったじゃん。人はすぐには変われないって。俺だけでは無理だからお前の力を貸してくれ」 「諦めずに頑張ればいいでしょ」 「じゃあ聞くけどお前は俺が一人で頑張れば変わると思ってんの?」 思うわけないだろ。 お前だけって言いながら言葉の節々でボロを見せてくれるんだから。 「ほらな。 やっぱり俺にはお前が必要なんだよ。お前がいなきゃドグサレから抜け出せない。抜け出せないならやり直せない。やり直す為にはお前の力と愛がなきゃ。な?」 「なにが、な? よ。色々語っているけどさ、最初から理屈が何一つ通ってないのも珍しいんだけど」 「そう、それそれ。お前はこうでなきゃ。俺を叱って導いてくれた女は後にも先にもお前だけだった。変わらなきゃって思ったけど、よくよく考えたらお前が俺の手綱を引いていたら俺たち上手く行くじゃん!」 「アホも大概にして! 私になんのメリットもないでしょ!」 「あるよ。俺のこと好きなくせに」 「ぎゃーー! 何すんの!!」 ずっと背後で乗りかかっていた害虫が私の耳たぶにかぶり付く。 暴れても暴れても離れないしつこさに疲れてきた。もうこれ害虫じゃないな。タチの悪い寄生虫だったわ。 「宿主はお前だけだよ」 シャレにならん。 笑いながら答えるドクズにムカつくけれど。 ドクズの全てが突き抜け過ぎて怒りよりも笑いが込み上げる。 でもそれもこれも、寧々ちゃんの告白を断った影響がないとは言えなかった。 絶対に言わないけどね。 ( 完 )
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