ずっと君を見ていた理由。

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ずっと君を見ていた理由。

席替えをして良かったと思う事。 一番信頼している友達が前の席な事。 そして、気になる人が斜め前な事。 隣は恐縮だから斜め前が丁度良い。 「今日は学食行こっか」 昼休みになると、幼馴染で唯一の友達であるりーちゃんに誘われて学食に行く事に。 「まだクラスに馴染めない?」 「うん、他の子だとやっぱり緊張する」 「でもさ、もう中3だよ? 来年にはあたしとも別の高校だし。今から人に慣れて貰わないと」 私、中西紗良はいつも彼女に心配ばかりかけている。小さな頃から人見知りが激しく、友達は彼女しかいない。 「頑張らないとだよね……」 「じゃあ、早速! おーい、私らも良い?」 えっ!? 男子3人組と昼食を取る事になってしまった。しかも、私が気になっている男の子もいる。 「紗良、かたまりすぎ」 「う……」 だけど、その後他のクラスの女子も3人合流し、大人数に。 ご飯食べた気しない! 頑張って上手く話さないとなのに。 私はハンカチを強く握りしめる。 そんな私にいち早く気づいたのが私の気になっている男の子……佐久間彗くんだった。 彼は私にスマホの画面を突然見せてきた。 スマホには『大丈夫?』の文字が。 『ごめんね。上手く話せなくて』 私もスマホに文字を打ち込み画面を見せる。 『話しづらかったらスマホで話せば良いよ。俺もたくさん話すタイプじゃないから丁度いい』 やっぱり優しい人だなぁ。 ふとこの間の事を思い出した。 「ノート集め? 俺が皆に声かけておくよ。あいつら話に夢中で話しかけづらいよな。ごめんな」 「大丈夫……です」 ノート集めを先生から頼まれ、困ってたら代わりに彼がノートを集めてくれた。 困っていると、いつもすぐに飛んでくる。 私に限らず、色んな人を助ける人だった。 だから、気になってしまったんだと思う。 この前の放課後も助けられたっけ。 「えっ! 何で掃除一人でしてるの! あいつらサボったか。ちゃんと注意しておくから今日のところは俺が手伝うよ」 用事があって皆が帰った為、一人で階段の掃除をしていたら手伝いに来てくれた。 「ありがとう。でも、部活……」 「さっと掃除して走って向かったら余裕。俺、陸上部だし」 「ろ、廊下を走るのは……」 「そっか。だめかぁ! まあいいよ! 早歩きで行くっ」 そうした彼からの優しさの積み重ねで気がついたら目で追うようになって。 でも、私は見ているだけでいい。 どうせ仲良くなれっこない。 こんな難しい性格してるんだもん。 「紗良、あいつとは話せてたじゃん」 「スマホ越しだけど……」 「もう! ちゃんと目を見て話さないと」 「だよね」 私ってどうしようもない……。 「あれ、まだ学校居たんだ? あ、そっか。図書委員だっけ」 「そ、そう」 放課後になると、偶然にも佐久間くんと二人きりになってしまった。 「そうだ、さっきは皆いたから聞きづらかったんだけど聞いて良い?」 「何?」 「あのさ……俺の事よく見てるよね? ずっと気になってて」 バレてた!? そうだよね、モテる人って自覚するかぁ。 上手く誤魔化さないと。 「その……寝癖が気になって」 「えっ! 寝癖!?」 「い、言う勇気がなくて」 「そっかぁ! 全力で直してくるっ」 「あの、部活は?」 「直してからっ」 顔を真っ赤にしながら彼は教室を出て行ってしまった。 明日から彼を見ないようにしよう!また指摘されたら逃げ場ない。 でも、気になる人を目で追うのはもう癖だから無理だった。 「今日は何? またどこか変だった?」 「え、えっと……ネクタイが曲がってた!」 「ほ、本当だ……」 だけど彼が抜けてるおかげで誤魔化しやすかった。 「今日は?」 「シャツにケチャップのシミ」 「よくシミ小さいのに気付いたね! 気付かなかった!」 その翌日も何とか誤魔化す私。 毎日彼のドジを指摘してる、気付いたら。 「いやぁ、よく見てるなぁ」 「でも……恥ずかしい思いさせてる」 「ちょっぴりね。でも気付いてくれるのって嬉しいよ。ほら、周りの友達は仕方ないなって感じでスルーだからさ。あ、でも体育の時間も俺の事見てたよね」 「な、何かやらかすんじゃないかって気になるようになって」 誤魔化し切れるのかな、こんなんで。 「ごめん。ハラハラさせて……」 本当は違うんだけど。 嘘に嘘を重なって申し訳ない。 「私が勝手に気になってしまうだけだから。気にしないで」 「でも、前より中西話せるようになったよね」 「そ、そうかも?」 「実はさ、俺も中西の事よく見るようになったんだよね」 「そ、そうなの?」 「何かやらかさないかなぁって。でも残念。粗は見つからない」 そうなんだ。 確かに最近やたら視線は感じていたけど。 まさか監視されてたなんて! 「面白みがない人間で申し訳ないです……」 「いやいや! 気にしないで! てか、何!? 俺、面白がらせる為にやらかしてると思われてる!?」 「それより部活」 「あ、やばっ。行かないと」 慌ただしい人だなぁ。 でも佐久間くんの言う通り、話すのに慣れてきた気がする。 初めは些細な嘘から始まって。 「部活頑張ってね。はい、スマホ」 私は机の上に置きっぱなしだったスマホを渡した。 「あ、また忘れるとこだった」 「あ、危なかったね」 「紗良がいないとダメだね、俺」 ナチュラルに名前呼び! 心臓が落ち着かないっ。 「私……そろそろ帰らないと」 「あ、あのさ! 紗良! 今度の大会、紗良に応援に来て欲しいんだ。人多いし、うちのクラスの奴らもたくさん応援来るし辛いかもだけど……」 「い、行く」 「大丈夫?」 「見たいから、好きな人が走ってるとこ」 「えっ?」 私、今何て!? いくら慣れてきたとは言え私の口からこんな言葉が溢れるなんて。 「ち、違……か、帰る……」 「ちょっ……俺は地獄耳なんだけどっ」 佐久間君は私の腕を掴み、私を引き止める。 散々誤魔化してきたのに私ってば!急に爆弾発言! 「わ、忘れて」 「無理。好きな人の発言は頭に残るんだよ、知ってた?」 「す、好きな人?」 「そ。紗良は俺の好きな人」 「それってあれだよね? 小動物に対する好き的な……?」 私は小柄で臆病者だし。 恋愛対象に見られるなんて微塵も思わない。 「結婚したいの好きだけど何か?」 「私はだめだよ! 私がありんこなら佐久間君はヘラクレスオオカブト!つりあわない……」 「例え何で昆虫なの」 「じゃあ、ハムスターとライオン」 「例えがしっちゃかめっちゃか。何? 周りが何か言ってた?」 「これからきっとたくさん……」 批判される未来しか見えない。 クラスでは地味で暗い子って思われてるし。 「でも、俺は紗良に散々世話を焼かれた結果紗良がいないとダメになったわけで」 たくさん誤魔化して彼のドジを指摘しまくってしまったのが仇! 「でも……」 「責任とる必要があるよね? 違う?」 「圧がすごいよ……?」 「たくさん俺を見てきたのはただ俺のドジを指摘したいからじゃなかったわけだ」 「そ、それは……」 「どちらにせよ紗良は逃げられ無いんだけどね」 「へ?」 「第一志望校、紗良と一緒のくるみ坂。たまたま陸上部の名門高校だったし、仕方ないよね?」 「私、君に第一志望校話したっけ……」 記憶の限りでは無い。 「だからさ、紗良。ずっと俺の事を見ててよ。俺もずっと紗良の事見てるから」 「うん……こ、こんな私でよければ成約して大丈夫です」 「ペットみたいだ」 彼からの圧力に押し負けてしまった。 「それより部活大遅刻じゃ?」 「あー!」 「廊下走るの今日は見逃すね」 「ありがと。明日からよろしくな、彼女さん」 「よ、よろしく」 顔に強い熱を帯びている。 私に恋なんて無理だと思ってたのに。 私を好きになる人なんていないと思ってたのに。 君が私を見つけてくれた。 (おわり)
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