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神様はいない
「刺されたって、丈助」
神様は、わずか2秒で俺を突き放した。
「クソッタレ」
「何て?」
「別に、何もねーよ」
「俺の代わりに刺されちゃった?丈助」
こいつの目が笑ってない所が、昔から大嫌いだった。
「蕪木とは、言ってたよ」
「多分、千草の旦那だと思うんだよねー。この事は、内緒にしてくれるかな?」
ドカッと机の上にアタッシュケースが、置かれた。
「とりあえず、1000万あるから。治療費もこっちで持つから。内緒だよ、丈助」
張りつけたような笑顔を浮かべてる時は、絶対に何かある。
「いらねーよ」
「強がるなよ、丈助」
「そんな優しいフリすんなよ。悪魔が!!」
「酷い言い方だな。駄目だよ。」
シャーっと、カーテンがひかれた。
「テメーは、俺の言う事聞いとけよ。この、下僕」
髪の毛を引っ張られて、唾を吐かれた。
「きたねーな。」
「次は、死ぬよ」
「どういう、意味だ」
「さあな」
「まさか、祥介。わざとじゃないよな?」
祥介は、口を歪めて笑った。
「お前」
「ご主人様だよ。俺は、丈助の」
札束で、頬をパシパシと叩かれた。
「返済しといてやるからな」
そう言って、祥介は出ていった。
俺は、いつまであいつの言いなりでいるんだ。
ベッドから、立ち上がった。
ガラガラ、窓を開けた。
どうにか、こっから死ねるかな?
「病院は、死ぬ場所じゃありませんよ」
その声に、振り返った。
さっきの先生だった。
「生きて帰る場所です。」
「死ぬ奴もいんだろーが」
「そうですが、自殺する場所じゃありませんから…。暴れたら、注射で眠らせますよ。」
先生は、ポケットからハンカチを取って俺についた唾を拭いてくれた。
「変な奴だな」
「それは、どーも」
「医者だよな?」
「何に見えますか?」
「幸せそうだな」
先生は、体温計を渡してきた。
「これって、看護士さんがする奴だろ?」
「うちは、決まってませんよ。人数が少ないので、手の空いてるものがやるだけです。」
「あー。そうか」
俺は、ベッドに戻って体温を測った。
「桂木さんには、私が幸せそうに見えますか?」
ピピピ
「あー。見えるね。はいよ。名前なんで知ってんだ?」
「免許証がありましたからね。私は、幸せでは、ありませんよ。」
先生は、悲しそうに目を伏せた。
「何でだ?」
「医者を辞めるんです。桂木さんが、最後の担当患者です。」
「何で、辞めるんだよ」
「私は、天才じゃなく凡人でした。もっと、助けられると思っていたんですがね。全然、助けられなかった。医者は、無意味ですよ」
「そんな事ないだろう」
「そんな事ありますよ。私と同期も何人も辞めたんですよ。必死で、医者になったのに救える命の少なさに絶望しちゃいました。」
先生は、窓を見ていた。
「先生みたいな人がそんなに人生に絶望するなら、俺の人生なんて絶望する価値もないな。」
「桂木さん、面白い事いいますね」
「そうか?どうせ、俺なんか生きてても、社会のゴミだからよ。さっきの奴だけが、俺を有効利用してくれてんだよ」
「へえー。実に興味深いですね」
「何か、興味ある事言ったか?」
「さあ?どうでしょう?」
先生は、訝しげに眼鏡をあげた。
「あっ、そう言えば俺を助けてくれたやつ知らないか?」
「桂木さんを助けた人は、いませんよ」
「そんなわけねーよ。白い服で桜の花が…綺麗な人で」
「さあ?そのような方は、乗っていませんでしたよ。」
「もう、いいよ。自分で探すから」
「わかりました」
先生は、頭を下げて出て行った。
どうやって、探すかな…
俺は、とりあえず暇すぎるからもう一度、寝ながら考える事にした。
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