ユートピアは嘲笑う。

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ユートピアは嘲笑う。

「うわあああああああああ!や、やめて、やめてくれええええええ!!」 「ふん、お前の命乞いなんぞ誰が耳を貸すか!」  宇宙最強の海賊団と名高いギャラクティカ海賊団の頭領・リジェールは、笑いながらぴかぴか光るレーザー銃をそいつの頭につきつけた。  頭に三本の角があり、肌の色は紫色。この惑星の住人としてそこまでは珍しくはない。だが、その男は他のガリガリに痩せた住人達の十倍は肥え太っていて、かつ全身に華美な衣装を纏っていた。この惑星の数少ない資源を、富を、全て己の元に集約したがゆえの醜い王の姿。なんと馬鹿げた話か。いくつもの惑星を襲撃してきたが、不思議なことにこのように知性の欠片もない王が支配する惑星はけして少なくないのである。  こういう奴らのせいで、民は苦しみ、星の環境は悪化の一途を辿る。なんともくだらない話ではないか。 「消えるが良い、獣め」 「ひぎゅっ」  引き金を引くと同時に、分厚い鉄板をも貫通するレーザーが男の頭蓋を貫いた。額の中央に親指大の穴を空けた男は、ぶくぶくと泡を吹きながらその場に倒れていく。  瞬間、ワアアアアアアアア!と集まってきていた野次馬達から歓声が上がった。リジェール達が宇宙海賊だと、彼等は知っているはずである(というか、自分達でそう名乗った)。しかし、あまりにも酷い王が支配している惑星では、時折こういうことがあるのだ。今の世の中が続くくらいなら、海賊でも来て乗っ取ってくれた方が百倍マシだ、というやつである。そういう者達の惑星に当たると、宇宙海賊である自分達でさえ時折歓迎される事態になるのだ。 ――俺達は英雄でも救世主でもない。この惑星を助けたくて、王様ぶっ殺したわけじゃねえんだけどなあ。  正直今の宇宙船に乗せられるだけの金品を、さっき殺した男の城から貰えれば充分なのだが。  民衆たちに取り囲まれて、リジェールは内心困ってしまう。自分達は海賊。どれほど歓迎されようと、よその惑星に長居するつもりはないのだ。 「あー……俺達はお前らを救うためにこの星に来たわけじゃねえ。あくまで海賊だ、そのへんわかってんのか?」 「わかっておりますとも!それでも、我々は長くあの男の圧政に苦しんでおりました。奴を勇敢にも打ち滅ぼした方こそ、この惑星国家の次の王に相応しいと考えているだけなのです。どうか、我々の王となってはいただけませぬか!」 「そういうわけにもいかねえんだっつの」  仕方ない。リジェールは、こちらの様子を伺っているレジスタンス組織の奴らの方を見た。自分達が来る前に、あのクソ王と戦っていた奴らだ。統制が取れており、さらに民衆からの支持も厚い組織であるようだった。そして、彼等の動き方から連中のリーダーが誰であるのかもわかっている。 「じゃあ、俺が相応しいと思う奴を指名するから、そいつを次の王にしてやれ。あそこで、細長い緑の帽子を被った若い男だ。奴は俺らよりもずっと長く、ここの王様と戦い続けてきたんだろう?立派なもんじゃねえか。あいつを王にしてやれ」  こういう場合は人望のあるやつを探して、ちょっと褒めて推薦してやれば大抵丸く収まるのだ。ついでに、自分達に対する対処を決めかねていたレジスタンス勢からも歓迎される結果になる。  そして、さらに自分達が何もしなくても、連中が良質な金品を元王様の懐から恵んでくれる。一石二鳥どころではない。  真に優秀な海賊は、暴力を使わずとも略奪を成功させるものなのだ、と俺は心の中でほくそ笑んだのだった。――まあ、前の王様を撃っちゃった時点で、暴力と言えば暴力なのだが。
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