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057:ブラックスライムに囚われた人達
光蟲と光り苔を作る必要性がある。とりあえず帰ったら、さっそく作ろうと思う。
そう思っていたら、なにやら前方が騒がしい。何事だろう?
松明の火を、そちらに向けて俺たちは走り出す。
声だ。男性が数名。何やら叫んでいる。更に走って駆け寄ってみると、そこには凄惨な光景が待っていた。
「ブラックスライム!」
ブラックスライムに囚われた一組の男女。それを助け出そうと必死に剣を向ける4人の男性。
「くそ! 仲間を離しやがれ!」
「ちくしょお。クレア! クレアー!」
「ダンを返せや。このクソスライム!」
阿鼻叫喚。ブラックスライムはその生態的に獲物をすぐには溶かさない。ゆっくり、じっくりと溶かすのだ。溶解液が、そんなに強力じゃないと言われている由縁だ。
まだ助け出せる、か?
でも剣が効かない。オレはジェサライムを見る。魔法ならばと思ったのだ。案の定。すぐにジェサライムが言った。
「アポーツを使う!」
アポーツは魔法の中でも基礎中の基礎。引き寄せの魔法だ。
「引き出せたら即座にオレの魔導書で焼き払うよ!」
オレの魔導書は攻撃特化だ。汎用性が少々乏しい。でもこの状況なら有り難い。ブラックスライムを焼き払うのに躊躇はない。人質さえいなければだが。
ジェサライムが呪文を唱え始める前に剣を振るう男たちに叫んだ。
「邪魔です。退いて下さい! 魔法を使って助け出します」
そう叫んだ瞬間にジェサライムの杖が光りだす。魔法が発動する兆候だ。その直後にジェサライムが呪文を唱えた。
『アポーツ!』
対象は一組の男女だ。
すると即座に男女がブラックスライムの溶解液から引き出された。まさに一本釣りのような光景。シュッポーンと言う感じだ。助け出された瞬間。オレも魔法を唱える。
『炎よ風よ。渦巻き踊り我が敵を消滅せよ。ファイアトルネード!』
成人の男女を一組も飲み込んでいた大きさのブラックスライムだ。結構な大きさがある。それに向けてオレは魔法を唱えた。
ゴォオオオオ!
っと炎の渦がブラックスライムを焼き払う。ブラックスライムの周りにいた男たちに少し火の粉が飛んだらしい。熱風がこちらにまで届くから、その熱かもしれない。
「あじゃじゃじゃじゃ!」
「うひぃいい!」
と叫びながら、こちらに向かって避難してきた。
しばらく闇の中を炎の明かりが照らしたが、それもすぐに収まる。また静寂の闇が辺りを覆う。
四人の男たちが咽び泣きながら、助け出された男女にポーションを飲ませ始めた。
「ふぅ。ひとまず安心か」
その後は、彼らにお礼を言われ同時に謝礼も貰ったのだった。
まぁでも。
それもこれも帰れなければ意味がないのだが……な。
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