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0.やり直す。
――1年を生きる。
それを短いと感じるか長いと感じるかは、きっと人それぞれだろうな。
少なくとも、俺にとっては長い時間だ。
だって一度だけじゃない、二度、三度と繰り返していれば、長く感じて当たり前だからだ。
それを何度も何度もやり直して、またここで、みんなと一緒に立っている。
みんなだ。俺だけじゃない。俺たちみんなが、やり直して、やり直して、やり直して――
挑んでいるんだ。
この眼前の現実に。
この眼前の怪物に。
この鬼に。
ははっ!よくよく考えたら、笑っちまうよな。
だって俺たちは、ただ公園でタッチ鬼しようとしていただけだったんだから。
どこにでもいる小学五年生が放課後、公園に集まって、ただみんなで遊ぼうとしていただけだったんだから。
それなのに、だ。今となっちゃ、こんな現実離れした状況になっちまって。
いつの間にか、こんな【命懸けの遊び】に巻き込まれちまってさ。
ふふっ、ふふぁはははっ!
ほんと笑っちゃうよ、まったくさぁ。
俺は引き攣ったような笑みをこぼしてしまい、それを隠すように大きな、俺自身の身体がすっぽり覆われる程に大きな『それ』を体表に構えた。
だが、その表情とは裏腹に掴む手が震える。
これからやることは、そうだ。
死を覚悟した、無駄死にの特攻なんかじゃない。
きっと、いや絶対、みんなが成し遂げてくれる。
だから。
だから、俺がみんなを守るんだ。
俺は笑みを消して目をつぶった。
ゆっくりと、大きく深く、一度だけ深呼吸した。
そして、ゆっくりと目を開く。
手の震えは収まってくれた。
それでも最後に少しだけ心細かった俺は、姿は見えないがみんながいるであろう位置を順に見回した。
オーちゃん、ウキョウ、チナミ、ヒカ、――それから、
「うっし!」
今となっては開始前から姿を見せている、巨大な赤黒い鬼。
俺は自分の目線よりもはるか上のその鬼の顔を力強く見上げた。
鬼も俺だけを冷淡に真っ直ぐ見下ろし返してくる。
その【遊び】が始まるのをじっと待っているのだ。
俺は自分の背丈以上の『それ』に顔を埋めると、数え始める。
1、2、3――
一つ数える度に、みんなと何度も過ごしたこれまでを思い返し、
――4、5、6、7――
一つ数える度に、みんなの顔を思い浮かべて、心に呑み込む。そして、
――8、9、10!
顔を上げた、と同時、
「そんじゃ、始めんぞっ!!!」
大声で宣言する。
《グオォォォォォォォォ――――――――――――――――ッ!!!》
鬼が歓喜の雄叫びを打ち上げた。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ――――――――――――――――ッ!!!」
俺も負けじと力の限り叫び、鬼目掛けて駆け出した。
鬼もその俺に応えるが如く全力で金棒を振り下ろしてくる。
空気を薙ぐ轟音が俺の耳を劈いた。
でも大丈夫。もう怖くない。
だって俺には、みんなが、仲間がついているんだから。
「らああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
バキンッッッ――――
『それ』は呆気なく割れ崩れた。
その向こうから、血に飢えたざらざらで禍々しい金棒が、俺の眼前に容赦なく迫りくる。
――フッ。ホント、笑っちまうよな。
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