精神科閉鎖病棟入院10

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精神科閉鎖病棟入院10

母は、自分のバックを探ると、私に、私が吸っている銘柄の煙草を三箱ほど渡してきた。 電話で頼んだ約束を、母は覚えていてくれたのだ。 私はふと思い出す。 最後に「ばいばい、ありがとう」とすら言えなかった、いつも一緒に過ごした女の子のことを。 いつも薬と煙草を交換してよ、と言っては煙草を私に強請って来たあの女の子のことを。 急いで会計のところに座っている多分医療事務の方?に話しかける。 「あの、この煙草を、ここに入院している〇〇と言う女の子にあげたいんですけど、えっと、差し入れです」と必死で伝える。 けれど、その人は困ったような顔をして「入院をしている人への差し入れは、ご家族からのものしか受け取れないんですよ」と言った。 私はそっか、と思うと、あの女の子がくれた眠剤を、結局私は一度も飲まなかったな、なんて思いながら、煙草を自分のバックに入れ、母の元へとトボトボと戻った。
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