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精神科閉鎖病棟入院4
入院していたのは、だいたいがおじいさん、おばあさんが多い病棟だったけれど、一人だけ私と同じくらいの年の、茶髪の女の子がいた。
それに、私よりも年下の男の子。
私はこの二人と仲良くなり、よく三人で広間のソファーに座って一日中話をしていた。
その茶髪の女の子は個室を与えられていて、何度もこの病院に入院していると言っていた。
今回もたった数日でまた戻ってきたと豪語していて、理由はオーバードーズだと言っていた。
なんせこの女の子は、夕食の時に配られる眠剤ですらも自分のポケットに貯めているのだ。
一体どうやって夕食後の看護師の目を搔い潜り、眠剤を取っておくことができるのか、私には皆目見当がつかなかった。
時々その眠剤を私に譲るから煙草を一本くれないか?と言われ、交換していたのを覚えている。
年下の男の子は「父親に無理やり入院させられている」と言って、怒っていた。
「自分は正常で、こんなところにいるべき人間ではない」とも言っていた。
私から見たら、彼は確かにオーバードーズもしないし、私のようにご飯を全然食べないわけでもないし、リストカットの痕が腕にあるわけでもなかった。
では家庭内暴力でも振るうのだろうか?と考えたが、言うのはやめておいた。
いつもこの男の子と夜中眠れるまで折り紙でカエルを折っていた。
ある日「俺は家にいない方がいいからここに入れられてるんだ」とその男の子が言ったので、私も「帰る家がないから、私も退院できるかわからない」と答えた。
こんな大事になってしまって、救急車で精神科の閉鎖病棟なんかに入院してしまったら、もう実家では面倒は見てもらえないだろうと思った。
父親には殴られるのではないだろうか、どれだけ叱られるだろうか、めちゃくちゃにされるだろうか、母親には泣かれるだろうか、色々なことを考えると憂鬱だった。
それなのに、「早くここを出なければ」とも同時に思うのだ。
「早くここを出て、なんとか言い訳をして、受け入れて欲しい、帰りたい、もう私は休みたい、疲れてしまった」と思うのだ。
そんな心の内を隠して、この男の子と一緒に毎晩カエルを折っていた。
ある日の夜、その男の子が言った。
「俺はきっとずっとここに入れられているから、お前もここに居ればいいじゃん」と。
何を言い出すんだ、と思った。
私は少し笑ってしまった。
そんなことはありえないし、私も望んではいなかったからだ。
「そうだね」なんて答えて、その夜はもう何も気にせずベッドに戻り眠ってしまった。
そう言えば友人たちはどうしているだろう。
母親に迎えに来てもらえればここを出られるだろうか?
けれど、携帯電話だって持たせてもらえない。
でも、ナースステーションの前に公衆電話がひとつだけポツンと置かれている。
これは、外と連絡をとっても良いと言うことなのだろうか。
そんなことを考えながら、それでもやはり実家の父が怖かった。
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