策略

1/1
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

策略

「ねぇ明日太。たまには猫ちゃん同士の親子交流……な〜んてものしてみない?」  私はさりげなく、休日じゃなきゃ無理な提案をしてみる。了解を得られれば、今度の日曜に明日太を予約できる。なんとしてでも今度の日曜バレンタインデーは明日太に会わねば。 「お前知らねえの? 猫は親兄弟なんてもの、すぐに忘れるらしいぜ。それに猫を移動させるのは、膨大なストレスがかかるんだぞ。動物病院行くのだってそうだろ。かわいそうなだけじゃね?」  なんと瞬時に玉砕。  次から次へと「会うための」提案なんて出来ないし困ったものだ。こういうところで変な正義感みたいなものが出るから明日太は取扱注意なんだよね。  でも、猫ちゃんからしたら、親の勝手な都合でストレスかけんなってなるよね。しかも、超個人的都合だから迷惑はなはだしいってところか。  うー。  とっておきの提案がいとも簡単に玉砕かぁ。頭の中がごちゃごちゃでうんうん唸っちゃうよ。  そんな私を見かねてか明日太が言った。 「でもまぁ、やってみないと分からねえしな。会わせてみるか?」 「うっそ、マジで! そうだね、そうしよう。いやぁ喜ぶよ~」 「お前ってほんと」 ──え? 「なんでもねーよ。さ、行こうぜ。コーヒー」  交渉成立を待っていたかのように校内のチャイムが鳴り響く。私たちはいつものように、図書室に鍵をかけ、その鍵を職員室へもどし、学校をあとにする。  喫茶店までの足取りが軽やかすぎのご機嫌すぎな私。  気持ちがだだ漏れてる高揚が伝わらないわけがない。  まずいな、少し大人しくしようと誓ったばかりなのに。  でも、むふふ、やばい。 「お前って見てて飽きねーな。猫みたいに様子がくるくる変わる。ハハ、やっぱおもしれぇ」  明日太が私を見て笑みをこぼす。まずい、女の子モードの主力電源が押されてしまった!  私は喫茶店に入るまで、ころころくるくる様子が変わった。変な緊張感のせいだ。バレンタイン作戦を遂行させるべく段取りが、全て狂ったようにも感じた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!