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フォーク
妄想の海で溺れかけた私のところにブレンドコーヒーと合わせてお楽しみデザートが運ばれてきた。明日太の前にもモカが置かれた。
本日のお楽しみデザートはショコラ・マンダリン。マンダリンオレンジとチョコのコラボが絶妙と書かれていたケーキだ。明日太は私のケーキをのぞきこみ、
「旨そうだな。ひとくちくれよ」
私の心臓壊す気!
動揺が手を振動させる。
「あ、明日太甘いの嫌いじゃんっ」
目が泳いでる。妄想の海からは出たはずなのに泳いでる。
「これならいけるかなーって思ってさ。それに、俺だってたまには甘いの食うぜ」
おいちょっと待て。それってどういうこと? なに? なんなの? 今日はどしたの?
「早くよこせよ。俺が甘いもの食べれるってとこ見せてやるから」
「明日太ちょっと待って。どしたの。なんでっ?」
まるで、私の反応を楽しむかのように明日太が身を乗り出してくる。
「そのフォークのままでいいんじゃねーの」
ちょっやめてよ、これってやばくない?
そんな私の心とは裏腹に震える手が明日太に向けて運び出す。さすがに「あーん」とまではいかなかったが、ケーキの乗ったフォークを受け取った明日太は、ケーキを口に入れ嬉しそうに言った。
「うん、やっぱり俺の見立ては合ってたな。旨いぞこれ。食ってみろよ」
返されたフォークを見つめる私に明日太が「俺だって恥ずかしかったんだからお前も連帯だ」なんて言ってのけた。私サイドの私だけの間接キス。
──分かってるのかな明日太は。
「あ、美味しい」
それは本当に美味しかった。味なんてよく分からなくなってはいたけど、明日太のはにかみ顔とフォークから伝わる甘酸っぱさが、私の口内を恋で染め上げた。そんな私を見て明日太が言った。口元に大きな手をあて、視線は床に落としている。
「今度の日曜なんだろ、交流会。早くちゃんと俺のこと誘えよ」
はにかむ明日太が、なんともかわいい。
「はいっ、すみませんっ。今度の日曜日、絶対私と会ってください」
握ったままのフォークが痛い。
「りょーかい、約束だ。あと、旨いの作ってこいよな」
なんてこと!
あっという間に主従関係成立!
そんなことよりも、恋の成就も成立?
やっぱり猫は神の使いだね。
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