余計な機能

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 家の前で、おかしな物を拾った。その名も「嘘発見めがね」。かけると見えている相手が嘘を言っているかどうかわかる、とケースに一緒に入っていた説明書には書かれていた。   そんなまさか、と思ったから、試してみた。  めがねをかけて、居間のソファでスマホをいじる父に話しかける。 「父さん、何してるの?」 「ニュース読んでんだよ。」 めがね越しに見ている父の頭上に「嘘」の文字が浮かび上がった。  本物だ!俺は興奮して部屋に戻った。質問する前に父がスマホゲームをしていたのを、俺は後ろからこっそり確認していた。母にやりすぎだと怒られてから、父はゲームをしていることを、大っぴらにしない。  嘘発見めがねは、俺が中学に入ってからかけ始めた眼鏡とそっくりな黒縁だ。俺がいつものめがねの代わりに、嘘発見めがねをかけていても、周りの人は違和感を感じないだろう。  次の日、嘘発見めがねを学校へ持っていった。最初からかけなかったのは、嘘発見めがねには度が入っていないからだ。使いたいときに、さり気なくかけかえるつもりだ。周りに聞かれたら、新しいめがねだから慣らしてるんだとかなんとか言えば良いだろう。  帰りのホームルーム前にチャンスが訪れた。 少し離れた席の何人かが誰が誰を好きだという噂話で盛り上がりだしたのだ。これに便乗すれば、そんなに怪しくない。   俺はめがねをかけかえる。数学の教科書とノートを揃えて鞄にしまっている隣の席の玲奈に質問した。 「なぁ、あいつら色々話してるけど…玲奈は好きな人いるの?」 さり気なく、何気なく、天気でも尋ねるかのように言った。 「んーまあ、いるけど…望(のぞむ)には教えないよ。」 おお、正直だ。いるにはいるのか。 「クラス一のスーパーボーイの俺だったりして。」 両手の親指で自分の顔を指し、いつもの調子で冗談交じりに言う。言われることはわかっている。問題は「嘘」が浮かぶかどうかだ。 「はいはい、大変おモテになるんでしょうね。」 軽口を返す玲奈。じれったい。そういうのはいいから、早く、俺のことを好きかどうかの答えを! 「残念!違うよ〜。」 いたずらっぽい笑みで返す玲奈の頭の上に、昨日の父と同じように文字が浮かぶ。 嘘  よっしゃー!っと心の中でガッツポーズをする。これは嬉しい。とても嬉しい。 「違うって言ってんのに何喜んでんの。あんたこそ、私のこと好きだったりして。」 両思い確定だから、言ってしまってもいいかとも思ったが、よく考えたらここは教室だ。近くの席のクラスメートには、この会話は丸聞こえだ。然るべき時に告白したほうが良い。 「ははは、そんなわけないだろ。」 大丈夫、顔色を変えずにいつもどおり言えたはずだ。  しかし、玲奈は俺の頭辺りを見つめて、驚いたような表情をしたかと思うと、赤面しだした。 「え、望の好きな人は私じゃないんだよね?」 「だから、違うって。」 玲奈は恥ずかしさに耐えきれないような様子で机に突っ伏してしまった。 話を聞いていたであろう前の席の直樹が振り向き、ニヤニヤしながら俺の腕をぽんっと叩いた。 「お前、頭の上に『嘘』って文字が浮いてるぞ。」 その言葉で直樹以外のクラスメートも俺の頭辺りに視線を向けた。担任の先生もだ。俺はめがねを外し、ホームルームが終わる前であるにもかかわらず教室を飛び出し、全速力で帰宅した。 家に帰ってから確認した。説明書には裏面があった。 「このめがねは、かけている人が嘘をついているかどうかを、周りの人に知らせる機能も兼ね備えています。」
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