2.消えた平穏

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 なんとか授業には間に合い、一息をつきつつ窓際の席に座る。普通なら、高校生なんて休み時間だけあればいいくらいの気持ちなのだろうけれど、俺にとっては授業中が何よりの安寧の時間だ。そもそも勉強も嫌いじゃないんだけどね。  神様は俺を完璧超人にでも仕上げたいのか、顔は良くて(もはや欠点)頭も良くて運動もできるとか、二物も三物も与えられまくりである。俺って罪な男だわ〜とか思ったけど、この学園にはそんな俺に並ぶ完璧超人が割と溢れているから俺が特別ってほどでもなかったわ、うん。  とはいえ、流石に授業を聞きもしない独学だけでは首位に居座り続けることはできない。俺だって一応、それなりに努力という名の予習復習はしている。事前にここが重要だろうと思っていたところを教師が言葉にすれば、しっかりマーカーをつけたりノートに書いたり。後から見直してここだけ押さえておけば大丈夫だろうと分かりやすいノートや教科書にするのを心がけていたりする。  中学時代の俺の人気の2割か3割は、テスト前の救世主的な意味があったのかもしれない。  みんな、目を血走らせながら俺のノートを取り合っていた。まるでジャングルの無法地帯のようだった中学時代が少し懐かしい。この学園は、というよりはこのSクラスはみんな成績上位で優秀だから、見るからに陰キャな俺にわざわざ話しかけてノートを見せてくれなんて言ってくる生徒はいない。  おじいちゃん先生の眠くなりそうな声を聞きながらノートを取っていたら、ガラッとドアの音が響いた。クラス中が音の方へと首を回す中、俺も例に漏れずつい音の方を見てしまう。  ドアの前には、機嫌良さげに笑む生徒会会計様がいた。クラスのチワワたちが、控えめな声量で「きゃあ!」とか「ひっ」とか「抱いて!」とか女子みたいな反応をしている。授業中だから声を抑えているのは偉いけど、第一声が抱いてってレベル高すぎない?  そんな肉食系チワワの歓声ににっこり微笑みで返しつつ、会計はスタスタとこちらに向かってくる。  え、なに、なんで!? やっぱさっきのまずかったかな!? いや考えるまでもなくまずかったんだろうけども!  内心パニクっている俺を知ってか知らずか、会計は俺の隣の席に着席した。……そういえばずっと隣が空いていて、単に空席なのかとラッキーに感じていたけど、ここ会計の席だったのかよ! 全然教室に来ないからすっかり忘れてたけど、考えてみたらそうだよね、会計は2年でSクラスだし! 1年の頃も同じクラスだったもんね俺たち! 話したことないけど! 「キミ、隣の席だったんだね」  そして平然と話しかけてくる会計。俺は荒ぶる心を落ち着けて、どう返事をするのが正解なのかを瞬時に考える。ちらと教室を見渡せば、チワワたちのみならず、他の生徒もこちらを見ていた。会計が普通に話しかけてくるもんだから、「え?」みたいな表情をしている奴が大半で、一部は明らかに不機嫌・不快・殺すぞオーラを放ち、さらに極一部は目をキラキラと輝かせて口元がにやけている。道添とか特に。
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