キミに捧ぐチョコレート(狗夜 凛edition)

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 日本人の男として生まれてしまった以上、年に一度の査定は受けねばならない。  少数の神と、大勢の悪魔が(ばっ)()する一日──それは、(てん)()()(じゅん)のバレンタインデー。  男の査定日だ。昇進テストだ。あらかた(しお)れてしまうまで、その日は毎年訪れる……。  幼い頃はけっこうモテたと思う。小学校もまあまあだった。でも中学校に入り、異変を感じ始めた。もらうチョコの数は年々減っていき、近年は二年連続でゼロが続いている。  何個もらったか。誰からもらったか。本命チョコはあったか。当日に女子から告白されたか。勝ち組はあからさまな優越感に浸り、負け組は日付が変わるその瞬間まで「何か起きるかも!?」と期待する。ほくそ笑む奴、(うな)()れる奴、見せびらかす奴、内心ドキドキしてる奴。男はその日を境に、見えない格付けをされてしまう。そうなると、底辺に分類された人間は、全員同じような雰囲気を出すようになる。 『バレンタインとかチョコとか、お菓子企業の戦略だろ。俺は別に興味ねえし』 『外国は男が女に花束を贈る習慣がある』  だとか、 『大事な人に感謝を伝えるだけの日なんだよ』  とか、いかにももっともらしいことを言って、負けを認めようとしない。 『あいつは顔がいいだけだ。実際の性格はかなり悪いぜ』   『スポーツが上手くても井の中の(かわず)だ。プロになれるほどじゃない』 『女の機嫌を取るのが上手いのは、それだけ計算高いってことだろ?』  ──とか何とか言って、チョコをもらえなかった者同士で愚痴り合う。まあ女みたいに結託して悪口を言うわけじゃないから、当の本人には何のダメージも与えられないが。  そういった負けオーラを(かも)し出したくなくて、俺は一つの逃げ道をこしらえた。根暗にならず、社交性のあるオタクになることに決めたのだ。  昔から活字を読むのが好きだった。小説、雑学書、専門誌、辞書。活字は豊かな知識を与えてくれる。さほど金もかからない上に、大きく時間を潰せる高尚なものだ。本が好きという印象は、人によって捉え方が違うだろう。でもだいたいの人間は、「頭が良さそう」と思ってくれる。チョコなんぞに一喜一憂しないインテリ少年を目指せば、いつか神様がご褒美をくれるかも知れない。  異変を感じた中学生の頃から、俺は「甘いものが嫌い」と公言してきた。「チョコをくれても食べないよ」というスタンスで、女に媚びないキャラクターを作り上げることに成功した。可愛い子が近づいてきても興味がないふりをする。本当は彼女が欲しいくせに、恋愛は読書の邪魔にしかならないぜ、なんて嘘をつく始末だった。
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