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そんな俺は、高校生という限られた時間を浪費している最中で、自分が作り上げたキャラクターを覆せず、好きな女子に対して告白の一つもできないチキンちゃんだ。
彼女とは中学校で知り合った。土橋美咲って名前の女の子である。
あいつは女だてらにかなり男前で、発言力と行動力があり、同輩や後輩の女子たちにやたらとモテる。美咲自身は不本意だろうが、バレンタインデーにおける憎らしき勝ち組の一人だ。
それなのに、何故だか俺に懐いてしまい、気がつけば親友みたいな存在になっていた。俺が図書委員をやると言えば、あいつもそれに乗ってきた。些細なことで大げんかをしたことも多々あるし、仲直りの儀式もしないで生真面目に勉強を教えてやったこともある。あいつの家で生まれた仔猫を一匹引き取って、猫を介した奇妙な縁も結んでいる関係だ。
──猫。ああ、俺の猫よ。おまえはどうして猫なのか。
モカと名づけたその猫は、いつもしなやかで美しい。やや太り気味な気もするが、誰よりも俺に甘え、他の人間にはシャーッと唸る愛らしい奴。モカほどフォトジェニックな猫はいない。できることならグッズを販売したいぐらいだ。
だから俺は、いつも美咲にモカの写真を見せてやる。あいつは嫁に出した娘を愛でるようにそれを見つめる。モカの両親であるブルマンとキリマンは、不思議なほど不細工だ。誰しもうちの子が一番だと人は言う。だが、俺のモカは世界一なのである。
だけど、モカよりも心に居ついてしまった美咲は、いったい誰にとっての一番なのか。
週に二度、委員会の仕事を終えた学校からの帰り道、俺たちは決まり事のように喫茶店に立ち寄ることにしている。コーヒー一杯飲む時間を使い、親友としての絆と、そこから先に続く小さな希望を膨らませているのだ。
どうやら美咲には好きな男がいるらしい。男前なのに、乙女な部分があることは理解していた。だから好きな男ぐらいいて当然、と思いながらも、そいつが誰かめちゃくちゃ気になっている。俺だったらいいなあ。つーか、おまえは俺じゃなきゃだめだろう。バレンタインで勝ち組になるような男は認めないぞ。イケメンや、スポーツ万能や、お調子者には賞味期限がある。一定の年齢になればそれらは加点要素にならないのだ。学生時代の勝ち組はいつまでもそれが抜けない。自分がモテると勘違いする痛い大人になる可能性が高いのだ。
そう言えたら少しは楽なのに──、俺は自分で作り上げたキャラクターをやめられず、あくまでも親友的に、色恋には興味がないよ的に、クールな感じの発言をするしかない。
「噂を聞いたんだけど。美咲に好きな人がいるとか何とか。恋愛もいいけど、傷つくような結果にならなきゃいいな。まあ今年のバレンタインは日曜だし、秘密裏に玉砕するのもありなんじゃないか。うまくいけば、それはそれでめでたいとは思うわけだし」
美咲の目が泳いだ。少しは否定してほしかった。そうか、やっぱり男はいるのか……。
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