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「俺とおまえの関係は、切っても切れるもんじゃない。モカが生きている限り、どこかしらに絆はあり続ける。だから、つまり、何が言いたいかって言うとだな、」
少し長い休符を打って、もう一度クールに話す。
「俺たちは立派な親友だと思ってる。美咲の良いところも悪いところも、ちょっとした癖や真っ直ぐな生き様も、ずっと見てきたし分かってる。要するに、誰よりも美咲のことを理解してるのは俺なんだと言いたい。なるべく応援してやりたいと思ってる。ただ、相手の名前も知らないでは作戦の一つも立てられない。美咲の理解者だからこそ、秘密にはしないでくれ。恋を成就させるには、軍師が必要だと古来より決まっている」
そう言うと、じとーっとした目をした美咲が、想定外の角度から切り込んできた。
「本当に私の理解者を気取るなら、回りくどい言い方が嫌だって知ってるはずだよ。今の言葉に疑問点が二つある。一つ、誰よりも私を理解しているなら、どうして彼の名前も知らないの。二つ、私の秘密を知りたいと思う理由は何なの。人に対して強制的な物言いをするくせに、内容に理由と本質が伴っていない。どうして私の秘密を暴こうとするのか、逃げずに答えたら教えてあげるよ」
普段の美咲は浅慮な女の子だ。しかし、牙をむくと決めた相手には鋭く噛みつく。それで泣かされた阿呆は多くいた。……かく言う俺も、そのうちの一人である。
くそう。今の美咲は無双状態だ。生半可な受け答えは墓穴を掘る。いっそのこと告ってしまおうか。おまえが好きだから気になるんじゃないか、と。
いいや、だめだ。俺は活字を愛するインテリ少年。たかだか美咲ごときの色恋沙汰には首を突っ込まない。こいつがバレンタインデーに誰と会おうが、知ったこっちゃないというスタンスでなければならない。
「ねえ、逃げるの。答えるの。まさか、それを返事することすら逃げるの」
かつて、「追い打ちをかけるのは真の武士にあらず」だと教えてやったことがある。まさに今の状況がそれだ。だが美咲は「徹底的に勝つことが真の勝利」だと言い切った。
筋道を立てて論破できない面倒な子。こいつの正義は時に禍々しい魔剣と化す。そのくせ愛情深く、優しくて細かい気配りができるから惚れちゃったんだよなあ……。
これ以上追及されると、みじめな気持ちで告白させられてしまうと思った。俺は一言添えて、静かに席を立った。
「チョコレートケーキを奢ってやる。それでも食って黙ってろ」
外国では男が女に気持ちを贈る習わしだそうだ。
美咲が無事に玉砕してくれたら、そのとき改めてチョコを渡してやろうと決めた。
(了)
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